第4話

文字数 491文字

一匹の子猿が罠にかかった。
右の前足、人でいう手首。
混乱してめちゃめちゃに暴れ、あらぬ方向へ体を捻じると、手首がもげた。
夢中で走って群れに戻り、沢で傷を洗い、傷口を舐めて出血を止めた。
翌朝、猟師は残された猿の手に目を丸くした。
傷が治ると、かれは特に他の猿と変わりなく成長した。
右の手首から先が無いこと以外は。
他の猿みたいに殻を剥く事が出来ず、なんでも殻ごと食ったが、そのせいで歯と胃腸を悪くした。
だから、食ったものが実にならず、体は貧弱だった。

僕は山できのこを採っている時、何度かその猿を見た。
山では様々な動物に出会うが、猿は特に嫌だった。
一匹の見張り。
必ず群れが居る。
何匹居るんだろう?
僕は動物に出会うと、わざと気づかないふりをする。
だいたいの動物は勝手に逃げてくれる。
しかし猿は厄介だ。
一定の距離でついて来る見張りと、その影でキーキーざわめく群れ。
取り囲まれたら、いや、一対一でも勝ち目はない。
しかし、その猿は弱そうだった。
痩せて、右の手首がなかった。
そう言えば、何年か前に猟師から手首をもいで逃げた猿が居る、と聞いた事がある。
こいつが、それか。
こいつになら、勝てるかもしれない。
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