第5話

文字数 388文字

沢を登る僕、尾根から見張る猿。
その先には餌場でもあるのだろう。
けど、僕もその先の、シモフリシメジを見に来たんだ。
山に邪魔してるのは僕の方で悪いけど、僕にだって生活がある。
出来るなら、逃げてくれないかな?
そんな気持ちで、歩を進める。
見張りの猿はキーキーうるさい。
沢の始まり、いよいよ尾根に向かって斜面に取り付くと、距離を保つには尾根から反対側に下る格好になる。
それでは見張りの役目を果たせないから、猿は木に登る。
ちょうど大きな赤松の大木。
しかし、右の手首から先がないこの猿は、うまく登れず、登ってはするすると滑り落ちる。
やっとの事で枝の出る高さ、枝に左前脚を伸ばした瞬間、どさり。
後ろ脚だけでは踏ん張り切らず、左手は虚しく空を切り、落ちた。
ゴロゴロ転がる音。
落ちた先は崖だった。
僕はさすがに気の毒な気持ちになり、諦めて引き返した。

それから見張り役の猿には、右手がちゃんとあった。
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