第11話

文字数 531文字

それからひと月経っても、家族の安否はわからなかった。
通信も物流も混乱した。
テレビでは日々身元がわかった遺体の名前が伝えられたが、身元確認は困難を極めた。
この未曾有の大災害に、高台や高層建築とともに、山村移住への気運が高まった。
家族が僕に見切りをつけて引っ越してからひと月足らず。
やっと、世間に負い目を感じないで暮らし始めたところ。
ああ、僕が、彼らを繋ぎ留める事が出来てれば。
こっちに居たら、助かったのに…
悪気はなかったんだ。
僕は見捨てられ、自分ひとり苦しんでると思ってた。
それであんなこと。
僕が石を蹴らなければ。
酒なんか、飲まなければ。
いや、そもそも僕がこの世に居なければ。
タラレバ言っても時は戻らない。
やり直しなんて、出来ないんだ。
たったひとりのどうしょうもないカスのくだらない思いつきが、家族も社会も不幸にしてしまった。
10000回死んでも足りない。
僕はこれからさき、何年もこんな気持ちで生きていくしかない。
ああ、ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
寒さに目を覚ます。
僕は、空の一升瓶を抱いて眠っていたようだ。
眩しい朝日、良い天気。
亀甲石は、ちゃんとそこにあった。
世間は何も変わらない、あたらしい一日。

やっぱり僕だけ、また少し追い詰められる朝を迎えた。
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