第7話
文字数 1,477文字
「やば~、雫の冠だ!」
「WUGちゃんと同じ所に立ってる!」
「写真!!また写真を」
底抜けの明るさが国際センター駅のラウンジを駆ける。
WUGの楽曲、雫の冠。そのミュージックビデオが撮影された場所。
スマートフォンを構えると「白髪頭」は忽ち物憂げになる。「具合でも悪いんですか」と尋ねるとムッとしながら「MVのあの感じを再現してるんだよ」
「全然良いんですけど──」
「急にフランクになり過ぎでは?ナナセさ」
「さん付けも敬語もなしで」と、遮られる。
「何なら、ななみんって呼んでも良いよ」
「ぶっ飛ばしますよ」と返したら「こわっ」と、イタズラっぽく笑った。
青葉城址で出会った白髪頭のナナセさん。アニメWUGのキャラクター、七瀬佳乃と同じ姓を持つワグナーだった。WUGスポットを国際センター駅から順に見ると教えたら「お供する」と言って聞かない。旅の目的を考えると付き纏われるのは望む所ではなかったが、話術と妙な人懐こさに負けた。
「こっち来てみ、羽生くんのパネルと撮ったげるよ」
餃子の天ぱり。アニメWUGで菊間夏夜が勤めていたお店。肉汁たっぷりの餃子。豚骨スープ。濃厚ながら軽い口当たりのそれをズーズー啜る。程良い動物味とクリーミーさ、温度が心を満たした。
「凄い──わぐばんで、あいちゃんとみゅーとかやたん」
「店主さんも!」
「ワグナーです。どうもお世話になってます」
コミュニケーション能力の高さ(遠慮の無さ?)に驚くばかり。店主も快くそれに応じてくれていた。
「次は何処さ?」
「大崎八幡宮、直筆の絵馬が置かれてるみたいです」
ナナセは天ぱりを見つめる。神妙な面持ち。返答が聞こえないみたいだった。
「どうかしました?」
「いや、何でもない。何でもないよ」
「大崎八幡宮、行こう」先の調子が嘘の様にぶっきらぼうだった。
大崎八幡宮。新緑のアーチを潜り抜けた向こう、鳥居の前に立つ。左右に大きく突き出した笠木と貫の中央に、八幡宮と書かれた立派な額が構えていた。
「ベガルタ仙台が参拝に来るんだよ、此処に」
「野球ですか」
「サッカークラブだよ」と、語気を強めたナナセを「冗談です」と宥めた。暫く、顔色を伺いながら軽口を叩く。
「君も冗談なんか言うんだねえ」
大絵馬。アニメWUGのヒット祈願で書かれ、大崎八幡宮の一角に展示されている。
「あれ?」
込み上げる違和感。記憶にある大絵馬と書かれた内容が異なる。暗記した訳ではないけれど決定的だった。
「心に残りますように」
「応援してもらえますように」
七つの願い。記入が明らかに少ない。大きな何かが欠けている様だった。
「え?いやいやいや!まさか!!」スマートフォンを尻ポケットから引張り出す。手が滑った。取り零さない様に必死になる。
「ウェイクアップガールズ アニメ」
「WUG アニメ」
検索結果は、というと。
「アニメ声優ユニット」
「アニメ主題歌担当」
「アニメロサマーライブ出場」
足掻けど期待は裏切られる。
この世界のWUGから目を背けた事が災いした。
気付けなかった。こんなにも遅くなった。
「ナナセさん、七瀬佳乃って知ってますか?」ナナセは答えない。
「天ぱりの壁に貼られたポスター、覚えてますか」
「さあ、ビールか何かかな?飾りのない壁だったけど」
そうして分かり切った質問を重ねるのは傷口をナイフで穿る気分だった。
アニメウェイクアップガールズは存在しない。この世界においてWUGは、コンテンツを持たない声優ユニットだった。同世代のアニメ声優により結成されたに過ぎない。大絵馬の内容も、凱旋公演に伴い書かれたとしたら納得出来るものだった。
「WUGちゃんと同じ所に立ってる!」
「写真!!また写真を」
底抜けの明るさが国際センター駅のラウンジを駆ける。
WUGの楽曲、雫の冠。そのミュージックビデオが撮影された場所。
スマートフォンを構えると「白髪頭」は忽ち物憂げになる。「具合でも悪いんですか」と尋ねるとムッとしながら「MVのあの感じを再現してるんだよ」
「全然良いんですけど──」
「急にフランクになり過ぎでは?ナナセさ」
「さん付けも敬語もなしで」と、遮られる。
「何なら、ななみんって呼んでも良いよ」
「ぶっ飛ばしますよ」と返したら「こわっ」と、イタズラっぽく笑った。
青葉城址で出会った白髪頭のナナセさん。アニメWUGのキャラクター、七瀬佳乃と同じ姓を持つワグナーだった。WUGスポットを国際センター駅から順に見ると教えたら「お供する」と言って聞かない。旅の目的を考えると付き纏われるのは望む所ではなかったが、話術と妙な人懐こさに負けた。
「こっち来てみ、羽生くんのパネルと撮ったげるよ」
餃子の天ぱり。アニメWUGで菊間夏夜が勤めていたお店。肉汁たっぷりの餃子。豚骨スープ。濃厚ながら軽い口当たりのそれをズーズー啜る。程良い動物味とクリーミーさ、温度が心を満たした。
「凄い──わぐばんで、あいちゃんとみゅーとかやたん」
「店主さんも!」
「ワグナーです。どうもお世話になってます」
コミュニケーション能力の高さ(遠慮の無さ?)に驚くばかり。店主も快くそれに応じてくれていた。
「次は何処さ?」
「大崎八幡宮、直筆の絵馬が置かれてるみたいです」
ナナセは天ぱりを見つめる。神妙な面持ち。返答が聞こえないみたいだった。
「どうかしました?」
「いや、何でもない。何でもないよ」
「大崎八幡宮、行こう」先の調子が嘘の様にぶっきらぼうだった。
大崎八幡宮。新緑のアーチを潜り抜けた向こう、鳥居の前に立つ。左右に大きく突き出した笠木と貫の中央に、八幡宮と書かれた立派な額が構えていた。
「ベガルタ仙台が参拝に来るんだよ、此処に」
「野球ですか」
「サッカークラブだよ」と、語気を強めたナナセを「冗談です」と宥めた。暫く、顔色を伺いながら軽口を叩く。
「君も冗談なんか言うんだねえ」
大絵馬。アニメWUGのヒット祈願で書かれ、大崎八幡宮の一角に展示されている。
「あれ?」
込み上げる違和感。記憶にある大絵馬と書かれた内容が異なる。暗記した訳ではないけれど決定的だった。
「心に残りますように」
「応援してもらえますように」
七つの願い。記入が明らかに少ない。大きな何かが欠けている様だった。
「え?いやいやいや!まさか!!」スマートフォンを尻ポケットから引張り出す。手が滑った。取り零さない様に必死になる。
「ウェイクアップガールズ アニメ」
「WUG アニメ」
検索結果は、というと。
「アニメ声優ユニット」
「アニメ主題歌担当」
「アニメロサマーライブ出場」
足掻けど期待は裏切られる。
この世界のWUGから目を背けた事が災いした。
気付けなかった。こんなにも遅くなった。
「ナナセさん、七瀬佳乃って知ってますか?」ナナセは答えない。
「天ぱりの壁に貼られたポスター、覚えてますか」
「さあ、ビールか何かかな?飾りのない壁だったけど」
そうして分かり切った質問を重ねるのは傷口をナイフで穿る気分だった。
アニメウェイクアップガールズは存在しない。この世界においてWUGは、コンテンツを持たない声優ユニットだった。同世代のアニメ声優により結成されたに過ぎない。大絵馬の内容も、凱旋公演に伴い書かれたとしたら納得出来るものだった。