第12話

文字数 474文字

 雪を待つ月、あれから四か月が経った。
 狐の嫁入り。風が足取りを妨げて雨粒が身体を濡らす。けれど、日差しが季節外れの温かさを齎す。不快感は乾いて消えて行く。
 小脇に抱える小説原稿。憧れと栄光と青春と、目一杯に閉じ込めた宝の箱だった。
 紙面の隅に落書きされた住所を見て溜め息を吐く。奇妙な友人を懐かしく思う。
 記憶を過ぎるのはナナセの白いシルエット。顔はもう憶えていないけれど。距離が離れてもずっと近い。同じ境遇の存在を感じながら、この日を想像しながら四か月を生きたと言っても過言ではなかった。
「お待たせしました」
 原稿の入った封筒を閉じ窓口に預ける。
 コピーは控えていない。ナナセに送ったものが世界で一つの原本だった。
 原稿は届かないし返事もないだろう。何故か分からないが予感がある。WUGも、同じ境遇との絆も全て失われてしまった。
 悔いはない。役目を終えた安堵が今は大きかった。
 青空、架け橋が見える。雨は降り続けた。
「次は何をしようか?」
「わかりません、でも──最近また小説を書く様になりましたよ」
「そりゃ良いね」

「そんで、幸せになれたかい?」
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