第5話疫病

文字数 806文字

 村に奇妙な病人が出はじめていた。

 重症ではないものの微熱が続き体がだるく、起きているのが辛くなった。
 最初はこれくらい大丈夫と仕事をしていると、突然立てなくなり、物が食べられなくなって、徐々に体力が衰える。

 一ヶ月もかけて少しずつ変化が起こるので、気がついた時には重篤になっていた。

 病が重くなると、急に年取ったように体にシワが増えて、皮膚の色が悪くなり、髪も白髪混じりになった。
 やがて、カサカサと萎びるように体が細くなり、起き上がれなくなった。

 原因もわからず、村には医者がいないので、対処療法しかなかった。
 熱を下げるために濡れ手ぬぐいを交換したり、食べやすい粥や芋のでんぷん粉をお湯で練った重湯を作ったり。
 後はただ寝ているしかなく、家族は病状が進むのをオロオロと見守るだけだった。

 村人の三分の一近くもが病にかかり、庄屋の七歳の一人娘、良江(よしえ)も倒れた。
 いつも落ち着いている庄屋の富野も、慌てふためいて、医者を呼びに、使用人を町へ走らせた。

 どんな時にも溌剌として飛び回っていた子供達もさすがにおとなしく、家に籠もっているようで、外に出歩いている人は少なく、村は閑散とした。

 やがて、シズの父親の太平も病に倒れた。大黒柱が働けなくなってしまったため、母親が馴れない農作業をするようになった。
 そのためシズは家事をまかされるようになって、父の看病に加えて、炊事に洗濯にと忙しくなった。

 それでもシズは、暇をみつけては毎日、森守(もりかみ)神社への拝礼は欠かさなかった。時折は小さな小麦粉団子を作ってお供えすることもあった。
「とおかみえみため、加見(かみ)ノ森が癒やされますように。父さんの病が良くなりますように、村の人達が元気になりますように」

 夕焼けが見える日には、シズは空を見上げた。

 加見ノ森上空には黒い裂け目が見えるが。裂け目は真一文字に閉じたままだった。あたりに黒い靄の固まりを漂わせたまままったく動かなくなった。
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