第6話お告げ

文字数 933文字

 シズが森守神社へ、拝礼しに通いはじめてから、百日あまり経った日。
 神社の拝殿の前に小麦団子をお供えして、柏手を打ち、祈っていると。ゆっくりと拝殿の扉が開いた。

 拝殿の中へは、お祭りなど特別な時しか入れないのだが、なぜか、シズを中へ誘っているように感じられた。

 許可を得るにも、近くに宮司の姿は見えなかったので、どうしようか迷っていると、一筋の光が射してきて足下を照らした。
 光は昼の明るさに負けないほど強く、シズを招くように揺れた。

 シズは後で叱られようと心を決めて、拝殿の中へ入った。
 中は薄暗くてよく見えなかったが、いつもは閉まっているはずの本殿への扉が半開きになっていて、奥からは複数の光の筋が、痛いほど眩しく目を刺激した。

 奥には何かが、途方もない何かがある。シズはそう感じた。
 恐ろしく、激しく、そして厳かな、それでいて慈しみ深く、(しず)かで清浄な。さまざまな感覚が脳内を巡り、微かなめまいを感じた。

 シズは光に導かれるように、奥の本殿へ足を踏み入れた。

 本殿内は光の洪水。影は一切なくただ光だけがあふれていた。

 光の中にはさらに強く輝く何かが。高い柱のような、または、背の高い人の形ともとれるような何かが、ゆらめいていた。

 シズはまぶしさに目を伏せながら立ちつくした。
 輝く何かは、シズの頭の中に直接言葉を伝えた。

 『豊年祭の夜に加見(かみ)ノ森に入り、中央にある泉の上に降る変若水(をちみず)を桶に受けよ。
 その水を筆に含ませて、切られた五十本の切り株に塗るがよい。
 その後で、変若水を含んだ泉の水を汲んで村へ帰り、病人に一口ずつ飲ませよ』

 光はそれだけ伝えると、スッと消えて、あたりは暗闇だけが残った。
 そしてシズが呆けている間に、景色が変わり、何事も無かったかのように、拝殿の前に立っていた。
 足下には白木で作られた手桶と一本の筆が置かれていた。

 夢じゃなかった。

 信じられないけれど、父や病気の人たちを救う方法を授けられたのだと、確信した。
 手桶と筆を抱え、拝殿に向かって深々と一礼する。

「おはよう、シズ、今朝も早いね」
 背後から声が掛かり、シズは振り向いた。
「あ、宮司さん、実は……」
 シズは、唯一信じてくれるだろう宮司に、彼女が経験したことを話しておこうと思った。
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