第5話 身代わり〜眞子の場合〜(1)
文字数 1,465文字
苅田眞子は、あるモデルのファンだった。モデルの名前は、砂原麗子という名前で、元々はネットで活躍しているインフルエンサーだった。
眞子と麗子が年齢も同じ20歳、同じ県の出身で、血液型も誕生日も一緒だった。何か運命じみたものを感じた眞子は、麗子が無名な時代から応援していた。
髪型やメイクを真似てみたり、麗子が紹介している服を買ったりしていた。元々垢抜けない優等生タイプだった眞子だが、麗子をお手本にしたら、垢抜けてきた。大学で異性から声をかけられる事もあった。
それでも眞子は、より上を目指していた。麗子のようにクッキリ二重になりたいし、顎にホクロがあるのも納得いかなかった。毎日朝から晩まで麗子の画像を見ていたら、いつの間にか「彼女のようにならないと」という義務感も持ち始めていた。
麗子のようになる為には、整形が必須だった。バイトはもちろん、時には風俗の仕事もしたお金で目、顎、鼻の大工事を行った。親は泣いていたが、担当した美容整形外科によると、「麗子みたいな顔になりたいって女性が多い」らしい。確かに美容整形外科に見せてもらったビフォーアフターのサンプル写真を見せてもらうと、麗子と似たような顔があった。他の写真も人気アイドルや女優と似たような雰囲気のものが多かった。この医者は腕が良いようで、芸能人からの依頼も多く、予約もなかなかとれなかったのだが、運の良い事に偶然キャンセルが出て眞子も手術を受けられ理事になった。
アフターフォローもしっかりとした美容整形外科で、術後も何度か通院した。心理カウンセラーも雇っていて、親の反応を相談していたりした。信じられない話だが、整形後に病む女性もいるらしい。確かにブスだった女性が、いきなり魔法のように美女になったら、童話・シンデレラのように上手くいくとは限らないかもしれない。
眞子自身も何か満たされない思いもあり、ズルズルとカウンセリングの予約をとっていた。
そんなある日、カウンセリング目的の通院後の事だった。
美容整形外科があるビルから出て、これから駅に向かおうとしていた時、ある男とぶつかった。大仏のようなルッククスの男だった。若作りして髪は茶髪にしていたが、パンチパーマの方が似合いそうだった。スーツはあまり板についてなく、一般的なサラリーマンではなさそうだった。歳は五十過ぎぐらいだろうか。頭は少し寂しい感じにもなっていた。
もしかしたら芸能関係者かもしれない。この美容整形外科には、それっぽい人を見かける事があった。ナチュラルで売っている女優の姿も見た事があり、長々とカウンセリングルームにいたの見た事がある。芸能界も見た目ほどキラキラはしていないのかもしれない。まあ、眞子は憧れの麗子になれるのなら、どうでも良かった。
「あぁ、ごめんね。ぶつかっちゃいました!」
眞子は少し高めの声を出し、業界人っぽい男に謝った。整形後は、こうやって高い声を出し、ぶりっ子していたら、大抵の事はどうにかなった。昔は逆に文句を言われたりしたが、顔が良いと得する事も多かった。確かにこんなルッキズム世界は、カウンセリングが流行るわけだと納得してしまう。
ぶりっ子して謝っただけだったが、なぜか男は目を丸くして眞子を凝視していた。ナンパかと思ったが、そういった色気がある目もしていない。どちらかといえば獲物を狙うライオンのような鋭い目だった。
「実は私、こういう者でして……」
男は一枚の名刺を差し出ししてきた。
「劇団クライシス? 何これ?」
眞子はわざとらしく首を傾げ、ぶりっ子を続けた。
眞子と麗子が年齢も同じ20歳、同じ県の出身で、血液型も誕生日も一緒だった。何か運命じみたものを感じた眞子は、麗子が無名な時代から応援していた。
髪型やメイクを真似てみたり、麗子が紹介している服を買ったりしていた。元々垢抜けない優等生タイプだった眞子だが、麗子をお手本にしたら、垢抜けてきた。大学で異性から声をかけられる事もあった。
それでも眞子は、より上を目指していた。麗子のようにクッキリ二重になりたいし、顎にホクロがあるのも納得いかなかった。毎日朝から晩まで麗子の画像を見ていたら、いつの間にか「彼女のようにならないと」という義務感も持ち始めていた。
麗子のようになる為には、整形が必須だった。バイトはもちろん、時には風俗の仕事もしたお金で目、顎、鼻の大工事を行った。親は泣いていたが、担当した美容整形外科によると、「麗子みたいな顔になりたいって女性が多い」らしい。確かに美容整形外科に見せてもらったビフォーアフターのサンプル写真を見せてもらうと、麗子と似たような顔があった。他の写真も人気アイドルや女優と似たような雰囲気のものが多かった。この医者は腕が良いようで、芸能人からの依頼も多く、予約もなかなかとれなかったのだが、運の良い事に偶然キャンセルが出て眞子も手術を受けられ理事になった。
アフターフォローもしっかりとした美容整形外科で、術後も何度か通院した。心理カウンセラーも雇っていて、親の反応を相談していたりした。信じられない話だが、整形後に病む女性もいるらしい。確かにブスだった女性が、いきなり魔法のように美女になったら、童話・シンデレラのように上手くいくとは限らないかもしれない。
眞子自身も何か満たされない思いもあり、ズルズルとカウンセリングの予約をとっていた。
そんなある日、カウンセリング目的の通院後の事だった。
美容整形外科があるビルから出て、これから駅に向かおうとしていた時、ある男とぶつかった。大仏のようなルッククスの男だった。若作りして髪は茶髪にしていたが、パンチパーマの方が似合いそうだった。スーツはあまり板についてなく、一般的なサラリーマンではなさそうだった。歳は五十過ぎぐらいだろうか。頭は少し寂しい感じにもなっていた。
もしかしたら芸能関係者かもしれない。この美容整形外科には、それっぽい人を見かける事があった。ナチュラルで売っている女優の姿も見た事があり、長々とカウンセリングルームにいたの見た事がある。芸能界も見た目ほどキラキラはしていないのかもしれない。まあ、眞子は憧れの麗子になれるのなら、どうでも良かった。
「あぁ、ごめんね。ぶつかっちゃいました!」
眞子は少し高めの声を出し、業界人っぽい男に謝った。整形後は、こうやって高い声を出し、ぶりっ子していたら、大抵の事はどうにかなった。昔は逆に文句を言われたりしたが、顔が良いと得する事も多かった。確かにこんなルッキズム世界は、カウンセリングが流行るわけだと納得してしまう。
ぶりっ子して謝っただけだったが、なぜか男は目を丸くして眞子を凝視していた。ナンパかと思ったが、そういった色気がある目もしていない。どちらかといえば獲物を狙うライオンのような鋭い目だった。
「実は私、こういう者でして……」
男は一枚の名刺を差し出ししてきた。
「劇団クライシス? 何これ?」
眞子はわざとらしく首を傾げ、ぶりっ子を続けた。
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