第4話 背景の色〜美代の場合〜(4)

文字数 1,087文字

 その夜、美代はミカエルについて調べていた。陰謀論者の中でも古株で、東日本大震災の頃から活動しているらしい。ファンも多いようで、オンラインセミナーや書籍で荒稼ぎしているようだった。自撮り写真はそこそこイケメンでもあり、アイドルのようなファンミーティングも開いているとは驚きだった。

 今の時代はワクチンの情報も錯綜していて、ミカエルのような男もそこそこアイドルになれるようだ。他にも陰謀論界隈のインフルエンサーは、小規模カルトを作っているものもいたりして、なかなか怪しい雰囲気だった。

 ミカエルは、ほぼ毎日美代のインタビュー画像や動画をあげているようだった。少し前はマスクやワクチンの話題ばっかりだったのに、今は美代の話題で一色だ。

「こいつ、私のファンか?」

 テレビに出演しても、いつも背景ま一般人のフリをしていた。こんな形といえども、こうして取り上げてられると、ちょっと嬉しくなったえいもした。中のはエキストラで出演したドラマに画像もあげているではないか。相当なストーカー? いや、これはファンだ。ファンだと思う事にしよう。

 美代はSNSの捨てアカウントを作り、さっそくミカエルに連絡を取ってみた。あのクライシスアクターの美代だと言うと、向こうもくいついてきて、劇団の近くにあるカフェで会う事になった。一応自分のホームである劇団の近くで会いたい気分だった。

「ねえ、あんた。もしかして私のファン? ドラマのエキストラの仕事の画像なんて、よく見つけてきたわね」

 問い詰めるというより呆れたように言うと、ミカエルは顔を真っ赤にしていた。ネットでは偉そうな事を言っていえるミカエルだが、女性の免疫は無いようだ。年齢はアラサーだと思われるが、童貞の可能性もありそうだった。

「うん、調べていく内にハマってね」
「そんなんで、いいわけ? エキストラのファンになるとかおかしくない?」
「うん、でもさ、このドラマで、口パクしながらの背景の演技とか結構上手いよ。あと美代さんが何度も昆虫食のインタビュー答えているおかげで、テレビ真理教の信者が続々と目覚めてたりしてるね。ありがとう、君のお陰さ」

 斜め上の方向から御礼をされてしまい、美代は絶句していた。

 それでも、初めて背景のような自分に色をつけて貰ったような気がした。なぜか、もうテレビの世界の主役にならなくても良い気がしてきた。

 その後、ミカエルと意気投合した。とんとん拍子に話がすすみ、結婚までいってしまったが、後悔はない。

 劇団もやめた。

 完全に一般人になった。夢も捨てたわけだが、今は背景では無い。ちゃんと色がある人間になれた気がした。
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