第12話 ホームドラマ〜誠の場合〜(4)

文字数 764文字

 目が覚めると、再び絶望感が襲ってきた。

 どこかのベッドの上に寝かせられていたが、手足を縛られ、身動きが全く取れない。

 これは夢なのか現実なのかは不明だったが、ベッドの周りに大人達が取り囲んでいるいのが見えた。橋爪や美花の顔もある。二人とも、無表情で、一緒に夕飯を食べた時のような笑顔は全く無い。

「ごめんね、誠くん。夕飯に睡眠薬いれていたの」
「美花さん、どうして?」

 泣きたくなったが、天井から降り注ぐ蛍光灯の光が眩しく、ろくに目を開けられなかった。

「ごめんな。君には生贄になって貰いたいんだよ」

 橋爪はこれ以上、何も言わない。

 周りに大人達の顔をよく見ると、与党と癒着している一大カルトの教祖の顔があった。政治だけでなく、芸能界にも強い権力があるカルトだった。ここに入らないと芸能界では干されるとも言われていて、「マリアの涙」のようなカルトとは規模が違うが、やっている事は同じ?

「ごめんね。子供を生贄に捧げると、成功するからね」

 教祖はそう言うと、誠の首を締めた。消えかける意識の中で、自分はあの夫婦に裏切られていたと気づく。家に子供用の下着や漫画などがあったのも、似たような被害者がいたのだろう。この為にわざわざ準備していたのだろう。

 そういえば図書館で読んだ本には、子供に綺麗な衣を着せ、ご馳走様をたらふく食わせた後に生贄に捧げるところもあると書いてあった。こうして生贄になるのは誉れで、自ら進んで犠牲になる子供もいるらしかったが、誠は自分で選んだ覚えはない。

 一つわかる事は、ホームドラマのような世界は二度と叶わぬ夢だと言う事だった。

 全部嘘だったとはいえ、橋爪や美花とホームドラマと似たような空気を味わえたのは、逆にラッキーだったのだろうか。

 橋爪も美花も演技が上手だった。立派な役者だった。すっかり騙されてしまった。
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