+こばなし

文字数 833文字

『私の村は魔族に焼かれたの......』
アヤは、嘗てキリコがそういった夜を思い出していた。
彼がイズ達勇者の旅に付き合うことになった頃、勇者一行として四人が集まってすぐのことだ。
仲間に加わった初めの晩、イズから自分には魔王を倒す理由もなければ、その気もないということを聞いていた。この旅を押し進めているのはキリコの方であるのだと。そのキリコが、この旅の理由として、魔王を倒すその理由として語ったのがそれだった。
魔族が憎い、そんな単純な憎悪だ。憎しみは憎しみを産むだけだなんて、よく言われるが、それを黙って飲み込むのは口で言うほど簡単ではない。そんなものに身を任せた復讐をこんな子供にさせてはいけないのだろう。だけど、彼女の憎しみには正当な理由があって、そうしてそれを止めることは私の立場からはできない。

どうするべきなのだろうか。あれから幾度と考えても答えは出なかった。


 アヤはまだ結論は出ないまま、何も言えないままに苦笑をしてやり過ごしている。彼女の間違っていないけれど正しくはない感情を、行き過ぎた魔族への憎しみを何もできずにただ眺めている。
 ほんの時折、彼女に魔族について考えさせようと問を投げることもあったが、それが意味を成したことはなかった。
「無力な大人だな。私は」
 結局できることといえば、償いのように優しく接するだけ。今までも、多くの人間にしてきたことと変わらない。アヤにとっては当たり前の行為をしてやることしかできないのだ。
 そんなことしかできない割に、彼女には随分と懐かれてしまった。
 今までの多くの人間もそうだ。それに罪悪感を感じながらも、彼にはそれ以上どうにもできないでいた。
 子供たちが寝静まった夜に、ひとり火を見つめながら自分にできることを考える。
「私は、あの子を止めなくては」
 人を愛することは、嘗て家族として共に歩んだ男が教えてくれたことだ。彼の教え、残したものを、家族を、アヤは守らなくてはならない。
「......たとえあの子を殺しても」
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