26.痕跡
文字数 1,566文字
少年に連れられてたどり着いた村は、すっかり荒れ果てており魔族により殺されたのであろう人の亡骸や、荒らされた家ばかりが目に付いた。少年が繋いでいる手に、ぐっと力を込めたのを左手に感じながら、キリコは辺りを見回した。
「生き残った人は、ここには居ないようね」
「ああ。魔族も、もう立ち去った後のようだ」
アヤは警戒しながら一歩一歩村の中を進んでいく。途中倒れている人の様子を確認するが、やはり反応はなく、見た通りに息絶えているようだった。
崩れかけた家の中にはもちろん、荒らされているとはいえ形を保っている家の中にも生きた人の影はない。
「ここ、ぼくのいえ......」
少年は不安げに瞳を揺らす。
「ぱぱ、ままー?」
明らかに中に人の気配がないことはわかっていたが、アヤもキリコも口にすることはできなかった。
「酷い有様だな」
「ええ......」
「私たちが森に入った頃には戦も気配など無かったはずだ」
「そうね。三、四日前のことかしら」
少年の後ろを離れてついて行く。一つ一つの扉を開け放って、声を張り上げ両親を呼ぶ。進めば進むほど、彼の足は重くなる。少しずつここに二人はいないという事実が確定していき、ついに全ての部屋を検めた彼は深く沈んだ顔で振り返った。
「魔族が村に来たときは、二人ともここにいたの?」
目線を合わせ問うキリコに、彼は小さく首を縦に振った。
「そう」
「見当たらないな」
少年が開け放ったドアの中をふらふらと覗き見回ったアヤは、二人の元へ戻って首を横に振った。やはりここには誰もいないようだ。
しかし幸と言うべきか、二人の遺体もここにはなかった。
「探しましょう......!」
「そうだな。私たちも手伝うよ」
キリコが力強くそう言えば、アヤも頷く。
きっと無事だ。なんてそんな無責任な言葉はいえなかったが、たとえ無事ではなかったとしても別れぐらいはするべきだと思ったのだ。
-----
まだ小さい少年の歩幅に合わせるように、二人はゆっくりと歩く。
村の中を探し回り、ふらふらと森の中を探しても少年の両親は見当たらなかった。 ついでに言えばイズやシュマもだ。生きた人間とは遭遇できていない。
拠点に戻って来るべく、あまり広範囲を探し回ったわけではないので何とも言えないが。
それでも村から何者かが出た形跡を見つけることはできた。それが人間のものか、魔族のものかは判別できなかったが、確かに足跡がいくつか村から伸びていたのだ。そのうちのいくつかを辿ってはみたが、途中で途切れてしまい手掛かりにはならなかった。そう遠くはない出来事とはいえ、自然は常に変化するものだ。簡単に痕跡など消えてしまうだろう。
互いに探しあえばいつか会うこともできるのやもしれないが、むしろ互いが探しあうからこそすれ違うこともある。
「心配なのはわかるが、あまり動き回ってばかりでは見つからないこともあるしな」
アヤは、そう少年を納得させると、キリコと手をつなぐ彼の頭をポンポンと撫でた。
「明日はもう少し遠くを見てみましょう?それにここにメッセージを残しておけば、お母さんたちが見つけてくれるかもしれないわ」
「うん」
「そう離れたところに行っているとも思えない。魔族達を警戒はしながらであっても、生き残った者たちは自分の村に帰ってくるだろう」
この森は広い。が、村は二つほどだ、そこまで近くもないので他の村逃げるのも簡単な事ではない。それに、例え村にたどり着いたとしても、彼らが快く迎えてくれる可能性は低いのだ。だから住処を追われた者たちの行き場など、やはり元の家ぐらいしかないはずである。
「戻って来ていないとしても、探せばきっと見つかるわ」
生きている保証なんてないけれど。
「うん......!」
顔をあげ、自分に言い聞かせるように強く頷く少年の手を、キリコは強く握った。
「生き残った人は、ここには居ないようね」
「ああ。魔族も、もう立ち去った後のようだ」
アヤは警戒しながら一歩一歩村の中を進んでいく。途中倒れている人の様子を確認するが、やはり反応はなく、見た通りに息絶えているようだった。
崩れかけた家の中にはもちろん、荒らされているとはいえ形を保っている家の中にも生きた人の影はない。
「ここ、ぼくのいえ......」
少年は不安げに瞳を揺らす。
「ぱぱ、ままー?」
明らかに中に人の気配がないことはわかっていたが、アヤもキリコも口にすることはできなかった。
「酷い有様だな」
「ええ......」
「私たちが森に入った頃には戦も気配など無かったはずだ」
「そうね。三、四日前のことかしら」
少年の後ろを離れてついて行く。一つ一つの扉を開け放って、声を張り上げ両親を呼ぶ。進めば進むほど、彼の足は重くなる。少しずつここに二人はいないという事実が確定していき、ついに全ての部屋を検めた彼は深く沈んだ顔で振り返った。
「魔族が村に来たときは、二人ともここにいたの?」
目線を合わせ問うキリコに、彼は小さく首を縦に振った。
「そう」
「見当たらないな」
少年が開け放ったドアの中をふらふらと覗き見回ったアヤは、二人の元へ戻って首を横に振った。やはりここには誰もいないようだ。
しかし幸と言うべきか、二人の遺体もここにはなかった。
「探しましょう......!」
「そうだな。私たちも手伝うよ」
キリコが力強くそう言えば、アヤも頷く。
きっと無事だ。なんてそんな無責任な言葉はいえなかったが、たとえ無事ではなかったとしても別れぐらいはするべきだと思ったのだ。
-----
まだ小さい少年の歩幅に合わせるように、二人はゆっくりと歩く。
村の中を探し回り、ふらふらと森の中を探しても少年の両親は見当たらなかった。 ついでに言えばイズやシュマもだ。生きた人間とは遭遇できていない。
拠点に戻って来るべく、あまり広範囲を探し回ったわけではないので何とも言えないが。
それでも村から何者かが出た形跡を見つけることはできた。それが人間のものか、魔族のものかは判別できなかったが、確かに足跡がいくつか村から伸びていたのだ。そのうちのいくつかを辿ってはみたが、途中で途切れてしまい手掛かりにはならなかった。そう遠くはない出来事とはいえ、自然は常に変化するものだ。簡単に痕跡など消えてしまうだろう。
互いに探しあえばいつか会うこともできるのやもしれないが、むしろ互いが探しあうからこそすれ違うこともある。
「心配なのはわかるが、あまり動き回ってばかりでは見つからないこともあるしな」
アヤは、そう少年を納得させると、キリコと手をつなぐ彼の頭をポンポンと撫でた。
「明日はもう少し遠くを見てみましょう?それにここにメッセージを残しておけば、お母さんたちが見つけてくれるかもしれないわ」
「うん」
「そう離れたところに行っているとも思えない。魔族達を警戒はしながらであっても、生き残った者たちは自分の村に帰ってくるだろう」
この森は広い。が、村は二つほどだ、そこまで近くもないので他の村逃げるのも簡単な事ではない。それに、例え村にたどり着いたとしても、彼らが快く迎えてくれる可能性は低いのだ。だから住処を追われた者たちの行き場など、やはり元の家ぐらいしかないはずである。
「戻って来ていないとしても、探せばきっと見つかるわ」
生きている保証なんてないけれど。
「うん......!」
顔をあげ、自分に言い聞かせるように強く頷く少年の手を、キリコは強く握った。