第3話

文字数 752文字

 こうした私の恨みつらみを、雄一は熱心に聞いてくれる。
「家出するしかないね」
 雄一は当たり前のようにそう言い放つ。
「嫌よ、家出なんて」と私は頬を膨らます。「なんで私が逃げなきゃいけないのよ」
「だって、家は居心地悪いんだろ」
「そうだけど、私から出ていくのは癪じゃない。あの二人の態度が改善されないと気が済まない」
 そう言って私はポテトをかじる。学校が終わってから、私たちはもう二時間もマックで駄弁っている。雄一は、私が無理やり連れてきたのだ。彼は私の、一応、恋人だった。
「じゃあ、父親に出て行けって言えば良いじゃないか」と雄一が言う。
「でも、ママが父親の味方なんだもん」
「じゃあ、やっぱり家出しなよ。というか、うちに来なよ。しばらく親が出払ってるから、ゆっくりできるぜ」
 雄一がそう言ったとき、頭の細い血管が切れる音がした。
「何それ、私をうちに呼びたいだけじゃない。あんたのそういう打算的なところが嫌いなのよ」
 つい声を荒らげてしまった。雄一もムッとした顔になる。
「お前さ、父親も嫌い、母親も嫌い、おまけに俺も嫌いって、誰だったら好きなんだよ」
 雄一の言うことは、今度はもっともだった。ただ私は、かわいそうにと同情してほしかっただけなのだ。なのに雄一は、当てにならない解決策ばかり提案してくる。ただでさえ虫の居所が悪いのに、余計にイライラしただけだった。
 私は席を立ち上がって、背もたれにかけていたカーディガンを着込む。おいもう帰るの、と言う雄一の声を無視し、空になったポテトの紙容器なんかをゴミ箱に放り込んだ。
 そのまま帰るつもりだったけれど、やっぱり思い直した。おろおろしている雄一の席に戻って、周りの客に聞こえるように言ってやった。
「バーカ!」

 ああ、イライラする。どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだ。
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