第1話

文字数 413文字

 五年前に失踪した父親が、何を思ったのかひょっこり帰ってきたので、私はひどくイラついている。
「よお美月(みづき)、大きくなったな」
 父親はそう言って、私の肩に腕を回してくる。私が顔をしかめて振り払っても、まるで気落ちすることなくヘラヘラしている。
 久しぶりに見る父親は、白髪の混じった髪を茶色に染めていた。もともと褐色だった肌はさらに黒くなり、顔の皺もずいぶんと増えている。唯一の自慢だった筋肉は見る影もなく、かといって脂肪もつかないので、浅黒い骸骨のように骨ばって見える。
 もう、ほとんどジジイじゃないか。
 気に入らないのは、この男はジジイになっても、中身が何一つ変わっていないことだ。金遣いが荒くて、女好きで、いい加減で、そのくせ女性に好かれるにはどうすれば良いか心得ている。自分がその気になれば、ほとんどの女性は自分の手に落とせると思っている。そういうところが本当に気持ち悪い。ゴキブリの方がよほどマシだと、私は本気で思っている。
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