この思い出は決して忘れない

文字数 592文字

氷川丸はいよいよ明日シアトル港に入港する。

私はまた氷川丸で日本に帰ることになる。

船長にも許可をいただいていた。

この船の乗組員の皆さんやひさえさん、カメラマンの彼と一緒であれば寂しくはなかった。

廊下を歩いていると、ひさえさんがリネン室の中でタオルをたたんでいた。

「お疲れ様。明日はシアトルに到着だね。」

と私は言った。

「荒海も無事に乗り越えて少しホッとしています。」

彼女は言った。

「氷川丸は頑丈だし、乗組員の皆さんのおかげですよ。」

私はリネン室の中に入り、彼女に頭を下げた。

顔をあげると、彼女と目が合い、見つめ合った。

私は彼女の肩を両手で抱き、そのまま抱き寄せ、唇を重ねた。


しばらくすると、私の肩を叩く者がいた。

目を開けるとそこはデッキのベンチであり、目の前には見たことのない警備員がいた。

「お客様、閉館のお時間です。」

彼は言った。

時刻は午後5時になっていた。

目の前にはランドマークタワー、観覧車、インターコンチネンタルホテルが見えた。

やはり夢だったのか…。

安堵と共に、寂しさも込み上げた。

氷川丸を降りて船を見上げた。

船はしっかりと港に固定されていた。

美しい船だった。

私は氷川丸に一礼した。

涙が溢れた。

みなとみらい線に乗り、横浜で湘南新宿ラインに乗り換え、自宅へ帰った。

上着を脱ぎ、洗濯をしようとポケットの中に手を入れた時、何かが床に落ちた。


そこには木彫りの小さな海亀の置物が落ちていた。
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