その女性スタッフは不思議なものを見るような目で私を見た

文字数 513文字

デッキを見回すと、先程の女性のような格好をした人々でいっぱいだった。

どうやら私は昭和初期を懐かしむ仮装パーティーのクルーズイベントかなにかに、間違って乗ってしまったらしい。

だが、この船は今も動いたっけ?

ふと離れていく陸地を見ると、そこにはランドマークタワー、インターコンチネンタルホテル、大観覧車等等のみなとみらいは無かった。

何が起きているのか、私にはわからなかった。

周りにいる乗客は外国人が多かったが、スタッフは日本人であった。

私はデッキにいた20代半ばくらいの女性スタッフに、

「これはなんのイベントですか?」

と聞いた。

「イベント?」

スタッフは不思議なものを見る目で私を見た。

ユナイテッドアローズのグレーのシャツにくるぶし辺りまでの白いパンツ、手にはiPhoneを私は持っていた。

「この船は、日本郵船氷川丸の神戸発、シアトル行きでございます。ただいま寄港地の横浜港を15時に出港致しました。」

と彼女は親切に教えてくれた。

雰囲気を壊さぬように気を使ってくれているらしい。

なんといっても、他の乗客は皆、気合を入れてその当時の人々になりきっているのだから…。

私はスタッフの彼女を人混みから遠ざける為、デッキの反対側まで連れ出した。
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