第15話

文字数 510文字

 スマートフォンが鳴った。四七五の固定電話からの着信だった。出ると、
「もしもし、藍?」
 探るような、それでいて急き立てられた真紀の声だった。
「どうしたん?」
 と聞くと、
「『どうしたん』て……」
 少し間が空いた。真紀の戸惑いが感じられる。それから真紀は、
「つながったやないの」
 と近くにいるらしい守男を非難する口ぶりになった。
「だから言うてるやないか」
 応酬する守男の声が後ろから聞こえた。
 何でも真紀はオレオレ詐欺の電話を信じ込み、自分名義の三四の口座からいくら集められるか計算したのだという。足りない分を守男名義の口座から下ろすことを本人に確認したところでやっと、まずは私に電話してみようという話になったらしい。
「携帯あるんだからすぐに電話くれればよかったのに……」
 私が言うと、
「そやなあ、けどそのときはもう頭いっぱいになってしもうて、思いつけへんかってんなあ」
 真紀は少しは落ち着いたらしく、小さな溜息をついた。
 オレオレ詐欺などに簡単に引っ掛かってしまいそうなところは危なっかしく、心配だが、それでも真紀は元気なのだ。よかった。私は胸を撫で下ろした。真紀とそうやって会話ができる。私はただただそれがうれしかった。
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