第4話 喫茶店

文字数 629文字

 その喫茶店は駅を降りて、路地を十五分ほど歩いた場所にあった。店の名は「早緑」という屋号だった。知佳がせかすように遼也に言った。
「早く入ろう」
店に入るとマスターが二人を見て軽く頭を下げた。驚いたことにマスターは日本人ではなかった。
「嶋村くん、早く席に座ろう」
見せには誰もいなかった。店の内装はシンプルだったが太い木を使った梁や壁の色のセンスがとても良かった。それに今、席に着いているテーブルや椅子も重厚な作りだった。
知佳が遼也に訊いた。
「なに飲む」
「この店のお勧めは?」
「コーヒーだけど、他とは一味違うから」
「じゃあ、それにする」
知佳はマスターにコーヒー二つとサンドイッチを頼んだ。知佳は遼也の顔を見て言った。
「マスターが日本人じゃなくてびっくりしたでしょう」
「うん。ちょっとね」
「マスターはオーストラリアのシドニー生まれなんだ」
「どうしてここに店を出したの?」
「さあそれはわからないけど、わびさびの雰囲気を出したかったって聞いてるわ」
「わびさびか」
「ちょっと変わってるよね。それにここは一言さんお断りの店だからね」
「じゃあどうして」
と遼也が言うと、知佳は微笑を浮かべて、「何度か父につれてきてもらったの。マスターと父は大学でしりあいだったらしいの。それでここのコーヒーとサンドイッチを初めて口にしたとき、あまりの美味しさに驚いてそれから一人でちょくちょく立ち寄るようになった訳」
「じゃあ、小原がいちげんさんじゃないから、この店に入れたのか」
「そういうこと」


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