第3話 帰り道

文字数 768文字

そして放課後、部活のフリーバッティングのときに遼也はがむしゃらにバットを振った。大きな当たりが外野に何度も飛び、部員たちを驚かせた。遼也は何かむしゃくしゃしていた。それが駅伝のことなのか、別のことなのか遼也にはわからなかった。
 遼也は部活が終わり、駅までの通学路を一人で歩いた。遼也は野球部の者とは群れなかった。もっとはっきり言えば誰とも群れなかった。理由は人づき合いが面倒で気を使ったりするのが嫌いだったからだ。部員の中には「ああいう奴がいるとチームの輪がみっだれる」と影で言っている者にも遼也は気づいていたが全く気にしなかった。野球部で一番長打を打てるのは遼也しかいなかったからだ。結果を出せば嫌われても馬鹿にされることはない。そんな事を思いながら遼也は駅に到着した。もう六時を過ぎていて、辺りは暗かった。ホームで電車を待っていると、ふいに後ろから声をかけられた。小原知佳だ。
「今日はわたしのせいで駅伝大会の結果が遅くなってしまって悪かったわ。怒ってる?」
「いや、そんなことないよ」
「本当に」
「ああ、気にすることはないよ」
「小原も部活の帰り?」
「うん。部活が終わってから個人練習してるから」
「熱心なんだね」
知佳はかぶりを振って言った。
「わたし運動センスないのよ。自分でもよくわかってるもの。だから駅伝大会であんなに人に抜かれたりするのよ」
遼也が黙っていると、知佳が沈んだ声で言った。
「やっぱり怒ってる?」
「だからそんなふうには思っていないよ」
遼也は知佳に愛想のいい笑顔で言った。すると知佳も思ってもいないことを言った。
「よかったら、乗り換えの駅で降りて喫茶店によって行かない」
「え、だってもう暗いぜ。家族が心配するんじゃないか」
「それなら大丈夫。部活に励むことに、うちの両親は賛成してくれているから」
遼也は軽く笑って黙って頷いた。
 


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