第9話 三津谷

文字数 1,353文字

と大きな声で言った。厨房にいた両親は相好を崩して笑っていた。少しの間四人で話をしていると、赤堀の母親が醬油ラーメンを盆に載せて四人の席にやって来た。赤堀の母はラーメンをテーブルに置きながら遼也に向かって言った。
「嶋村くん、今日はみんなで来てくれてありがとうね。高校の野球部でいつも世話になっていると息子から聞いてるわ。これからもよろしくお願いします」
遼也は笑顔で言った。
「いえ、こっちの方が逆にお世話になってますよ」
「本当に」
そこで赤堀が母に言った。
「本当な訳ないだろ、もう麺が伸びるからあっち行ってくれよ」
赤堀の母はにっこり笑うと
「ごゆっくり」
と言って厨房に戻って行った。
「さあ、食べましょう」
赤堀が威勢よく言った。遼也は赤堀を見て言った。
「あっという間に醬油ラーメンできあがったな」
「ラーメンは早さが重要なんです。もたもたしていたら麺があっという間に伸びちゃいますからね。とにかく食べましょう」
そう言うと赤堀は麺を啜って食べ始めた。他の三人もラーメンを食べ始めた。知佳がラーメンを一口食べて
「美味しいわ」
といって遼也の顔を見た。
「本当だな。久しぶりにここのラーメン食ったけど、まったく味変わってない。最高だ」
「そう言ってもらうと嬉しい限りです。話は変わりますけど、今年の夏の大会で先輩のセンターオバーの当たりは凄かったですね。後少しでホームランだったじゃないですか」
「俺一人が打ったって、どのみちまけるんだよ。後の打線が続かねんだもの、それにピッチャーなんかやっと百キロを超えるくらいの球しか投げられないだもの、勝てるわけがない」
すると赤堀が厳しい顔で遼也に言った。
「先輩それ違うと思いますよ。どうして自分のチームメイトの悪口いうんですか。先輩は知らないでしょうが、先輩と同じ学年の三津谷さんは部活の練習が終わっても、一人で毎日、素振りをくり返す努力を重ねているんです。三津谷さんの話では、小さい頃から野球が好きで、小学のときから高校まで野球部に入ってやってきたんだけど、補欠にも入ったことがないって言ってました。でも三津谷さんは毎日練習が終わってから、一人で練習しているんです。いくら野球が好きだと言って、練習しても最初から能力のある人には敵いません。それは厳しい現実です。先輩は中学の時からクリーンナップを任せられる能力を持っています。それがどれだけ幸せなのか知っていたらおそらくチームの悪口は言えないと思います」
遼也は赤堀を見つめたまま言った。
「すまなかった」
赤堀は遼也が素直に謝罪したので、驚いた顔をした。遼也は続けて言った。
「野球はチームプレイだからな、俺が間違っていたよ」
「いや、すいません。おれ生意気なこと言っちゃって」
「いいのさ。でもやっぱり赤堀には人をまとめる力があるんだな。中学のとき部長を任せられる理由がよくわかったよ」
そこで話を変えたのは意外にも唯だった。唯は知佳に訊いた。
「小原さんは料理とか得意ですか?」
「得意とは言えないけど、煮物とかならちょっと自信あるわ。昔、お婆ちゃんに作り方叩きこまれたから」
すると赤堀が顔色を変えて言った。
「唯の唐揚げは最高なんです。誰でもうまいって言うはずですよ。ちなみに俺は餃子を作るのが得意です。家はラーメン屋ですからね。先輩はどうですか?」


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