第4話

文字数 663文字

平地に宇宙船を着地させて、ケントは外へと最初の一歩を踏み出した。

ポーン、と高らかに飛んで行く。

身体や命の自由さを感じる。

たくさんのものから解放されて、
ケントは自分の被る、ヘルメットのシールドに、
星が走っていく様子も外側から見たと思った。

好きなだけ星を蹴って遊んだあと、ケントはテディーベアの方に向かった。

テディーベアは、はしゃぎ回るケントから背を向けていた。

ケントの存在に、気付いていないのだろうか。

接近したテディーベアの座高は、ケントの太股ほどあった。

ただのぬいぐるみというには大きな身体だ。

着ぐるみならば背にあるはずの、チャックはない。

着ぐるみじゃないのであれば、そこにいるのは汚れた玩具だ。

クリーム色に褪せた毛は玉になっているし、毛が剥げた箇所がいくつかあった。

後頭部の中央を縦に繋げる縫い目は緩くなり、
布が割れて、中の綿が露出している。

ケントはもっと注意深く、テディーベアの後頭部を観察した。

その視線は、月面を眺めるときと同じ真剣さだ。

よく観察してから、テディーベアの後頭部から視線を落とした。

丸々と太った背中が、汚れきっているさまは哀愁的だ。

持ち主も友人も、近くにいる様子はなかった。

孤独なぬいぐるみは可哀そうにも思えるが、
最も強く感じるのは、のろく蠢く玩具は、不気味だということだ。

テディーベアの背が、再び蠢いた。

ケントは顎を伸ばして、テディーベアの背中側から、
毛むくじゃらの手元を覗き込んだ。

テディーベアの股の間には、ラジオが置かれていた。

ラジオの四角い体から伸びる、銀色のアンテナを、テディーベアは弄っていた。
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