第2話

文字数 806文字

 ここは、何もかも人工的に創られた完璧なT都。ここにあるものは、すべて管理されたもので自然なものは一切ない。
 例えば、かつて様々な形をしていた野菜や果物は統一の真四角の個体となって、缶詰に決められた数入れられて売られている。それらは九十九パーセント安全で、元の野菜と変わらない完璧な味をしている。もっとも、その自然なものは食べたことがないため、味がわからないが。
 道端に生えている草でさえも、緻密に計算されている。それらに無駄なものはなく、都庁の手が加えられない限り、枯れることも増えることもない。
「イナカって、ここみたいに自然をコントロールするんじゃなくて、自然と共存しているんだって。凄いよな」
 イナカというのは、山に囲まれて、天然の川が流れ、虫が自然に生きており、天然の野菜が無造作に生えた畑と、自然の水でできた田んぼが無源に広がっているという幻の土地だ。
 二人も写真の中でしか、イナカを見たことがない。野菜等は全て管理された施設で人工的に遺伝子を組み換え作られる。そこで根付き、長い間、受け継がれた文化も、自然が作り上げた雄大な景色も全て消え去った。
 「アホらしい。外は寂れた景色が広がっているだけだ。とても住めたところじゃない。ここに生まれたとこに感謝しろよ」
「外が寂れているって、そんなの、都庁が見せる写真の情報だけだ。実際に行ってみないと分からない」
 都庁は、外の世界は不毛で、都市の人間が住めるような土地はないというが、圭人には信じられないらしい。この映像やここでの会話も都庁にばれれば罰せられかねなかった。
 「俺は必ず、外に出る。止めたって無駄だよ、伶央」
 圭人の目に迷いはない。真っ直ぐに射抜かれ思わず目を逸らした。
圭人の言っていることは絵空事だ。何かしでかす訳ではないはずだ。そう思い込むように判断し、無意識に懐に入っていた拳銃を握りしめた。伶央は、圭人に背を向け、部屋を後にした。
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