第6話

文字数 1,197文字

 圭人が踏み出した外の世界は、想像していたものとあまりにも違った。荒廃した土地も、豊かな緑もない。
 そこは一面真っ白な四角い部屋だった。部屋の真ん中で仕切られたガラスの向こうには白衣を着た男たちがこちらをみている。だが、一人一人の顔を見ることは出来なかった。なにしろ、眠いのだ。




 
 伶央の携帯端末にニュースの情報が流れる。テロリストのリーダーが射殺され、都知事が無事解放されたというものだった。このテロリストの男にも、植え付けられた崇高な目的があったのだろう。

 ここは、何もかも作られたまがい物の都市。歴史も記憶も、そこに住む人間さえもだ。普通の人間たちは、今も日本で暮らして続けている。都市の人間が習うより日本という国はずっと広く、滅びにくい。都市は、とある研究所の広大な実験場で、伶央たちは、遺伝子操作の末作られた、人間の劣化コピーでしかなかった。

 それに気づいたのは中学の頃だ。伶央は小さい頃から『イナカ』の話を圭人にしていた。外に出たがったのは、伶央の方だ。
 外から来たという男の手を借りて、保安部隊に追いかけられ、いわゆる大冒険の末、同じ方法で二人で外に出た。そして得た事実はあまりにつまらないものだった。
 ただひとつ都市の話で正しかったのは、都市の人間が外に出られないとこのみだ。ただしそれは、外が毒薬で汚染されているからではなく、劣化コピーの肺が弱すぎて、都市の空気の中でしか生きられないだけだ。

ニュースは悲惨な現場を報道している。男は都庁の周りを爆破したらしい。小さい子供が怪我の痛みでもがいていたり、子を亡くした母親が泣き叫んでいるシーンが何度も流されている。研究所の人間いわく、マンネリ化を防ぐため、このような刺激も必要だという。 
 男は都市に自由を、すべては都庁の陰謀だと訴えていたらしい。多くの人間の反感を買うだろうが、一部では感化された者たちが都市の外を目指すかも知れない。
 くだらない。都市の空気をつくるスイッチを切れば、全員死ぬのに。

 本来、外に出た都市の人間は記憶を消され、再度、都市に戻される。圭人はそのように処理されたか、伶央は何故か記憶の消去ができなかったらしい。その理由の解明と都市の様子の報告係として伶央は生かされ続けていた。

 真相を知ろうが世界は変わらない。何もできないなら、何も知らない方が幸せだった。だか、記憶はもう染み付いたまま離れない。伶央は圭人の話を聞くのが好きだった。何も知らず、世界に夢を見ていたころ思い出すからだ。
 たが、圭人の思考は矯正される。二度目の今回は、おそらく強く作り変えられる。もう外に出ないとは言い出さないようになる。外に出ることを食い止めればよかったかも知れない。
 だが、この日のために人知れず準備してきたであろう圭人を止める気にはなれなかった。

 つまらなくなるな。そう思いながら、新しい圭人ができるのを待っていた。
 
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