第21話 シュトゥルム彗星

文字数 1,657文字

 私はスマートフォンをノートパソコンに接続し、流星群の写真をノートパソコンに移した。そして新しいフォルダを作ってそこに入れた。これは今日に限った話ではなく、天体観測で撮った写真は全て後でまとめるようにしている。
 そのフォルダは、発作の発生状況をまとめたワードファイルの隣にできていた。

 そういえば、昨日は何も更新しなかった。発作が起きなかったからだ。葉子と鳶雄やその友人たちと沢山会話をしたのにも関わらず、である。
 私は、発作が起きなかったことも記載した。


 昨日は流星群の観測で、かなり遅くなってしまった。茜たちの帰りを心配したが、三人とも真庭の家に泊まると親に言ってあったそうだ。観測に夢中になっていて気がつくと、日付も変わって午前二時。流石にこれ以上自分にも他人にも無理させたくなかったので、私は観測を打ち切った。鳶雄たちはがっかりしていたが、梟町なら日時さえ把握していれば流星群は私がいなくても観測できると言うとそれで納得した。

「でも、もっとすごいものはないんですか?」

 鳶雄が私に聞いたので、私は答えた。

「もちろんありますよ。この夏休みの本命です」

 それは三週間後、三十日に地球に最接近すると予想されているシュトゥルム彗星だ。この機を逃すと次に接近するのは三百年後の二三一三年なので、ドラえもんに頼まなければ観測は不可能になってしまう。

「す、彗星? な、何なのそれは?」

 私も今まで見たことがないので、学んだ知識しか話すことができなかった。

「太陽の周りを回る星はいくつあります?」
「水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の八つでしょ?」
「冥王星は?」

 葉子がそう言ったので私は、

「だから冥王星は惑星から外されてしまったって言ったじゃないですか」

 改めて教えた。そして次に彗星について説明した。

「惑星と同じ様に太陽の周りを回るんですが、その軌道は極端な楕円軌道なんです」

 私はわかりやすく、地面に絵を描いた。

「これが太陽とすると、これが地球。そして、こんな感じに回るのが彗星です」

 こんな星があるのか、と裕唆が聞いた。

「ありますよ。有名なものだと、ハレー彗星でしょうか。君たちのご両親ぐらいの人なら知ってると思います。ハレー彗星は…」

 私は絵に海王星を追加し、ハレー彗星の軌道を描いた。

「このように回るのです。次に接近するのは二〇六一年です。生きていれば、見られるかもしれませんね」

 そして、シュトゥルム彗星の軌道も追加した。今度はわかりやすくするために冥王星も描いた。

「シュトゥルム彗星は冥王星よりも遠くで折り返します。そして地球と火星の間を通って、また離れていきます」
「落ちては来ないんですか?」
「シューメーカー・レヴィ第九彗星は木星に衝突し、地球と同じくらいの衝突痕ができました。彗星と惑星の衝突は、可能性はゼロではありませんね」

 そう言うと、五人の顔から血の気が引いた。秘未心なんて冷や汗をかいている。

「…今回はその心配はないです。天文学者は仮に衝突するとしたら火星だろうと言っているぐらいです。しかもその確率はそれこそ天文学的な数字です」

 五人は安堵した。

「燃え尽きないの?」

 茜が私に聞いた。

「そうですね…。シュトゥルム彗星はその存在が江戸時代の文献に、紅の妖星という名称で確認できます。確かに彗星が分裂して消滅したり、太陽系から出て行ったり、惑星と衝突したり、小惑星に変わったりもしますが、シュトゥルム彗星については大学の教授も、当分はそうはならないだろうと言っていました」

 彗星と隕石は違う。茜は多分、隕石のような性質を聞きたかったのだろう。しかし私はあえて彗星の性質の説明をした。

「じゃあ、見るだけでいいのね」

 葉子の発言に私は無言で頷いた。

「この夏の最後の思い出として、みんなで見ましょう、シュトゥルム彗星を!」

 私は五人と約束した。
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