第13話 聞いてしまった…

文字数 782文字

 この夜、真庭の家の二階の一室で鳶雄は頭を抱えていた。

「そんなことが…。嘘だ。嘘のはずだ」

 鳶雄はアカネたちと約束した通り、颯武の部屋に近づいた。ちょうど颯武が風呂から出て部屋に戻って来たタイミングだった。一瞬バレたかと思ったが、颯武は姉の方を見ていたので大丈夫だった。
 そして縁側にも行った。庭からは見えない位置で、様子をうかがっていた。
 この夜は静かだった。だから二人の会話の内容が全部聞こえてしまったのだ。もっとも聞いてる途中で嫌な気分になってしまい、我慢できなくて部屋に戻って来てしまったのだが。


 自分は両親に見捨てられている。
 姉の代わりに死ねば良かったと言われた。
 神様が選択を間違えた。
 生まれたての段階で捨てれば良かった。


 両親に愛されて育った鳶雄にとっては、思い出すだけで辛く感じる。それを颯武は、抱えて生きているというのか? しかも病気も抱えて?

「そんな状態で生きることができる人なんて、いるはずがねえよ…」

 でも下の階に宿泊している。もっとも彼によれば、実家には帰れないので親戚を訪ねてきたという感じだが。

「俺は……何をしてるんだよ」

 たまらず自己嫌悪に陥った。そんな事情を抱えてる颯武に、自分は何をした? 果たして颯武は、謝って許してくれるのだろうか?

「俺一人じゃ、解決なんてできない…」

 颯武は自分より五つ年上だ。その五年はただの五年じゃない。両親に見捨てられ、既に死んだ姉のことを延々と話に引き出され、何をやっても評価すらされず、家に帰ることも禁じられた。言葉で表現するのは簡単だが、それだけでは説明しきれない時間を彼は過ごしてきた。
 鳶雄はこれ以上考えられなかった。いや、両親に存在を否定されることを考えたくなかった。だから布団に入り、今日はもうあれこれ考えずに寝ることにした。
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