第15話 宇佐金剛銀行

文字数 1,411文字

 篠崎がネシアのFAX通信相手として発見した宇佐金剛銀行は、合併を繰り返してメガバンクのトップに君臨している。社名からそのルーツは消えているが、もともとは日本で唯一の外国為替銀行として、むしろ海外の知名度が高かった。日本企業の海外進出支援で頼りにされ、実際にシンメカのグローバル展開にあたって、宇佐金剛の海外支店のある場所に進出して、資金移動のためのメインバンクとしてきた。直近のネシアだけが例外で、耶蘇銀行が全てお膳立てしており、宇佐金剛銀行の手を借りていない。

 シンメカ御曹司のアキラ専務も、MBA取得後に宇佐金剛銀行で五年間修業している。営業店の窓口から始まり、営業、人事から、経営企画まで経験している。シンメカに入社後、宇佐金剛からの借入金比率が二十ポイントは上がっているだろうか。やはり、銀行側も、それを期待して受け入れていたのだ。

 ところで、宇佐金剛と耶蘇の関係であるが、宇佐が耶蘇の持分(株式数)の五パーセントを占める筆頭株主となっている。当然業務提携もしているのだが、メガバンクで全国展開している宇佐金剛のキャッシュカードは、なぜか耶蘇のATMでは他行扱いして手数料を徴収されるのだ。

 篠崎は元々宇佐金剛がメインバンクで、給与振込や、クレジットカードの決済口座としていた。シンメカに赴任した当初、地元に宇佐金剛のATMが無いことに驚いた。会社の目の前にあるスーパーの耶蘇ATMから引き出したら、しっかりと手数料を徴収されて面食らった。以後、コンビニATMしか使っていない。篠崎はシルバークラスの顧客なので、コンビニATMなら二十四時間年中無休で手数料が無料なのである。ケチな理由ではあるが、篠崎は会社のメインバンク耶蘇銀行に良い印象を持てず、口座も作っていない。経理部長が、である。

 不思議なことに、宇佐金剛銀行は県内に拠点はおろか、ATMコーナーすら持っていない。日本一のメガバンクでありながら、進出の気配も見せないのは、提携先の耶蘇の抵抗によるものだろう。シンメカ担当の営業は、新宿にある数字の大きな営業第十何部とかの人間で、耶蘇銀の担当と鉢合わせしても、メガバンクらしくない、妙に卑屈な態度でいる。もっとも、丸の内の方から来る、外為やらシンジケーションの連中は、いかにも「おいらメガバンク、おまえら地方の田舎講、おとなしくシンジケート団に加わりやがれ」の態度であるが。

 宇佐金剛の担当者は、借入金のリファイナンス(借り換え)のため、三カ月に一度は来社する。最近は丸の内組も連れた結構な人数でやってくることが多い。近いと言っても、往復一日がかりの新幹線である。そんなに金をかけて来る必要があるのか、零落したかつてのトップバンクだって、県庁横に県内唯一の支店を構えているぞ、お宅も作ればいいじゃん、と篠崎に言われた宇佐の担当者は、ばつが悪そうに頭を掻くばかりだった。やはり、なにか経緯(いきさつ)があるらしい。

 シンメカのアキラ専務は、宇佐金剛銀行の同期会には極力顔を出している。耶蘇を牽制する意味でも、宇佐との関係は強化しておく必要があった。今年四月の同期会で、検査部の同期に話の流れでシンメカ篠崎のことを話題にしたことがあった。その男は、篠崎の経歴と資格に興味を持ったようで、後でそいつの名刺を送れと専務にことづけした。ついでに、来月開くネシアの支店セレモニーの案内も、と。
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登場人物紹介

地方都市で急成長中の精密機器メーカーの経理部長。

実は特命監査室長

技術憧憬癖があり、無線マニア、飛行機マニア。

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