第14話 オフサイト調査②

文字数 1,251文字

 ハンバーグを半分しか食べられず、ご飯も残せと強要されたせいで、小腹の鳴った十六時半、ミニノートPCに接続した20インチディスプレイの右下に、ケイコからのチャット呼び出しサインが点滅した。

 クリックして、ポップアップのチャット吹き出しを表示する。篠崎の背後は壁に並んだ書類キャビネットなので、後ろからディスプレイを覗かれる心配は無い。

「部長、めんどくさいです。目が疲れました」

 ケイコの背後も、ガラス戸の背の低いキャビネットで隔てられており、チャットのポップアップを読める距離に近づくのは困難だ。

「何か出たのか?」

 最初に、比良坂の送受メールを調べさせている。篠崎はスマホ入力は遅いが、MS-DOS時代からのPCオタクで、キーボード入力はアマチュア無線のパケット通信のUI(非コネクト)チャットで鍛えたスピードを持つ。

「外からのメールは全部見ているんですが、シンメカ本社以外はスパムばっかりです。耶蘇とのメールはありません。あとは発信ともに部下に対する指示と回答です。ネシア語使われちゃったから、Web翻訳しながら見てますけど、特に変な指示はしてないようです」

「港湾倉庫の外注とのやりとりは?」

 製品は1トン以上ある大きな機械なので、輸入されると港湾地帯の委託倉庫に入庫され、そこから直接顧客宛に出荷される。シンメカ・ネシア社屋の倉庫には、主に消耗品とスペアパーツが置かれている。

「比良坂社長自身はやっていないようですね。あとでマネジャーのメールで追ってみます。社長はあまり国際間のメールを使っていないようです」

 社長がメールを使わないというのもおかしい。シンメカ・ドメインのメールを避けているとも考えられる。

「ご苦労だが、頑張ってくれ。休み明け初日でエンジンもかからないだろう。残業制限超過回数が厳しいんだ。今月は四十五時間を超えないように気をつけて、今日は定時で帰ってくれ」

 前年度、ケイコに月間残業の制限超えを七回記録させた篠崎には、勤労課からイエローカードが出ている。今年度六回超えたら始末書ですよ、と勤労課長のコバヤシヒトミ(♀)に目をつけられているのだ。既に四月・五月の決算と有価証券報告書作業で月間残業キャップを超過させている。第2四半期も二回はやるだろうし、予算と中期経営計画ローリング(見直し)もあるので、今回の特命調査では超過労働はさせたくない。

「了解です。晩ごはんも糖質と脂肪は控えめにしてください」

「きみはオカンか?」

「上司の健康を気遣う優しい部下です。部長の方こそ、何か出ましたか?」

「妙な相手先とのFAX送受記録がある。実際のPDFデータはまで取得できていないが、週に何度かやり取りしている。この相手との送受内容を即時にFTP転送するようにセットしたから、来週までには何枚かデータが取れるだろう」

 篠崎は、ネシア社員がカラーコピーした、ろくでもない写真のPDF画像を順送りしながら答えてチャットを閉じた。
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登場人物紹介

地方都市で急成長中の精密機器メーカーの経理部長。

実は特命監査室長

技術憧憬癖があり、無線マニア、飛行機マニア。

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