第5話

文字数 4,888文字


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 # # # # # # # #

そもそもこの治療ホルモンは

精神作用と関係があるそうなんですが、

ホルモン自体は若い時にしか

分泌されないそうです。

また、成長ホルモンとも関係があるそうで

年齢が若くなるほど

えー、幼少期から思春期ですか、

その年齢ですと

ホルモンは強くて長持ちするそうですが

彼らの惑星は

三十年前から子供が生まれていませんから

最年少でも三十歳。

実は、彼らの惑星にも、突然変異で

治療ホルモンを体内に持っている若い人が

いたそうなんですが

何十億人にも投与するのが難しいため

これを培養する研究に着手して

成功したらしいんです。

しかしですね、その時には治療ホルモンを

持っていた若い人も、年齢的に分泌不能に

なり、残りの一人があいにく宇宙船の事故で

死んでしまったため、

地球に「突然変異の人間」を探しに来たそうです。

ここまでが現在、公表されました。

国連前から三浦がお伝えしました

  # # # # # # # #

「母さん、二十光年というのは

光でも二十年かかるほどの距離だよ。

ワープするとどのくらいの速度になるのか

知らないが、ずいぶん大変な思いをして

来たんだろうね」

「そうね、きっと必死の思いで来たのね」

「そうだよ、子供が生まれなくなると

滅びてしまうからな」

「そうよね。

でも、これから突然変異の人間を探し出すと

いっても、大変だろうにね」

「たぶん、彼らは特殊な探知機でも

持っているんだろう。

なにせ、二十光年をワープして来れるぐらい

なんだからな」

翌朝のテレビでも

全チャンネルがこの話題で持ちきりだった。

武田一家でも全員が一日中

このニュースにくぎ付けになった。

  # # # # # # # #

惑星人は、次のことを追加で発表しました。

「この治療ホルモンは非常に繊細なため

生体から取り出すとワープには耐えられない

したがって治療ホルモンのある人には

いったん我々の惑星に来ていただいて

検査の上ホルモンを取り出して

培養しなければならない」

  # # # # # # # #

それを聞いておもわず父親が叫んだ。

「えっ、地球から子供を連れていくのか」

  # # # # # # # #

これらの声明を受けて緊急国連安保理は

満場一致で彼らを援助することにしました。

ただし、条件はしっかりと付けました。

第一に、
地球から惑星に連れて行く期間は一年以内で

必ず健康な状態で地球に連れて帰ること。

第二に、
子供なので一人っ子は避けること。

また恐怖感を持たないような措置を

しっかりととること。

第三に、
彼らが地球に帰還するまでの間は

彼らの親族や関係者を悲しませないように

「惑星人が現れた時点から『選ばれた人間』

が帰る時点」までの全人類の記憶を一時的に

消去し彼等の生活の記録を残さないこと。

期間後にすべてをもとに戻すこと。

第四に、
その後「選ばれた人間」は

地球と惑星との両方で

いわゆる「偉人」として今後大切にすること

第五に、
今後地球人にあなた方の惑星の科学技術を

教えること。

  # # # # # # # #

翌日の月曜日から探索が始まることになった

まず、北極から南の果ての南極まで

丹念に探査する。

そのあとは、その航路をずらして南から北に

出発点はロンドンのグリニッジ天文台、

つまり経度ゼロから始めて西から東に回る。

海の上にも人間がいるために、

大西洋、太平洋なども陸地と同じ探索をする

したがって探査と分析の期間は

二週間ほどだという。

ニュースでは

「突然、暗闇になっても驚かないように」と

世界中に注意を呼び掛けていた。

翌日月曜日は始業式。

いつものように小学校の子供たちは

柿埼地区の山上の集合場所に

七時半に集まり集団で登校する。

「早くしないと遅れるわよ」

「分かってるよ」

翔太は菜々美に赤いランドセルを背負わせて

そしてあの「赤い靴」を履かせ

手を引いて家を出た。

菜々美はまだ慣れていないために

翔太に手を引かれながら恐る恐るついてきた

「みんな集まったかな?」

係のPTAのおばさんが

一人一人を確認してから

ぞろぞろと十数人の小学生が歩き始めた。

「菜々美」

「なぁに?」

「まだ慣れないだろうけど、

保育園の時と同じと思うんだよ。

菜々美は活発なんだから

今まで通りすればいいんだよ」

「うん、分かった」

菜々美は翔太を見上げると

にっこりと微笑んだ。

始業式が始まった。

校長先生が生徒全員の前でまず例の話をした。

「みんな、ニュースで知っているだろうけど

UFОがそのうち、

この下田の上空にも来ます。

その時は真っ暗になるでしょうけど

決して怖がったりしないように

してください」

その話のあとは、いつもの朝礼と同じだった。

一時間目は算数の時間。

翔太はあまり気がのらずぼんやりとしていた。

ほかの生徒たちも

そして肝心の先生も気がのらないようだった。

みんなUFОのことばかり気になって

浮足立っているような雰囲気だった。

ひょっとして自分が遠くの惑星に連れて行か

れるかもしれないのだから当然なのだが。

そんな茫然とした新学期最初の授業が終わり

翔太は一年生のクラスに行って

菜々美を探した。

一年生の教室は活気に満ちていた。

あまりUFОのことなど気にしていない

ようだった。

やっぱり一年生はまだ子供だなあ

と翔太は思った。

「菜々美」

「あっ、おにいちゃん」

「そろそろみんな集まっているよ」

「うん。

今したくするからちょっと待っててね」

帰り道も集団下校だった。

家のそばで解散になった。

「ねえ、おにいちゃん」

「どうしたの」

「目の前に山があるでしょ」

「うん。でも、それがどうしたの」

「こないだ、お寺に行った時にね、

やさしい仏様の顔を見たでしょ」

「ああ、禅仙寺のことね」

「それからね……、

菜々美、目の前の山を見ると

仏様がにこにことしているように見えるの」

「へえー。おにいちゃんはそんなふうに

感じたことないけど……。

菜々美には特殊な感性があるのかもね」


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ここからは、パソコン向けです

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そもそもこの治療ホルモンは精神作用と関係があるそうなんですが、

ホルモン自体は若い時にしか分泌されないそうです。

また、成長ホルモンとも関係があるそうで年齢が若くなるほど

えー、幼少期から思春期ですか、その年齢ですと

ホルモンは強くて長持ちするそうですが

彼らの惑星は三十年前から子供が生まれていませんから

最年少でも三十歳。

実は、彼らの惑星にも

突然変異で治療ホルモンを体内に持っている若い人が

いたそうなんですが、何十億人にも投与するのが難しいため

これを培養する研究に着手して成功したらしいんです。

しかしですね、その時には治療ホルモンを持っていた若い人も

年齢的に分泌不能になり、残りの一人があいにく宇宙船の事故で

死んでしまったため、地球に「突然変異の人間」を探しに来たそうです。

ここまでが現在、公表されました。国連前から三浦がお伝えしました

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「母さん、二十光年というのは光でも二十年かかるほどの距離だよ。

ワープするとどのくらいの速度になるのか知らないが

ずいぶん大変な思いをして来たんだろうね」

「そうね、きっと必死の思いで来たのね」

「そうだよ、子供が生まれなくなると滅びてしまうからな」

「そうよね。でも、これから突然変異の人間を探し出すといっても

大変だろうにね」

「たぶん、彼らは特殊な探知機でも持っているんだろう。

なにせ、二十光年をワープして来れるぐらいなんだからな」

翌朝のテレビでも、全チャンネルがこの話題で持ちきりだった。

武田一家でも全員が一日中このニュースにくぎ付けになった。

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惑星人は、次のことを追加で発表しました。

「この治療ホルモンは非常に繊細なため生体から取り出すと

ワープには耐えられない。

したがって治療ホルモンのある人には、いったん我々の惑星に来て

いただいて、検査の上ホルモンを取り出して培養しなければならない」

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それを聞いておもわず父親が叫んだ。

「えっ、地球から子供を連れていくのか」

       # # # # # # # #

これらの声明を受けて緊急国連安保理は満場一致で

彼らを援助することにしました。

ただし、条件はしっかりと付けました。

第一に、地球から惑星に連れて行く期間は一年以内で

必ず健康な状態で地球に連れて帰ること。

第二に、子供なので一人っ子は避けること。

また恐怖感を持たないような措置をしっかりととること。

第三に、彼らが地球に帰還するまでの間は

彼らの親族や関係者を悲しませないように

「惑星人が現れた時点から『選ばれた人間』が帰る時点」までの

全人類の記憶を一時的に消去し彼等の生活の記録を残さないこと。

期間後にすべてをもとに戻すこと。

第四に、その後「選ばれた人間」は地球と惑星との両方で

いわゆる「偉人」として今後大切にすること。

第五に、今後地球人にあなた方の惑星の科学技術を教えること。

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翌日の月曜日から探索が始まることになった。

まず、北極から南の果ての南極まで丹念に探査する。

そのあとは、その航路をずらして南から北に。

出発点はロンドンのグリニッジ天文台、

つまり経度ゼロから始めて西から東に回る。

海の上にも人間がいるために、大西洋、太平洋なども

陸地と同じ探索をする。

したがって探査と分析の期間は二週間ほどだという。

ニュースでは、「突然、暗闇になっても驚かないように」と

世界中に注意を呼び掛けていた。

翌日月曜日は始業式。いつものように小学校の子供たちは

柿埼地区の山上の集合場所に七時半に集まり集団で登校する。

「早くしないと遅れるわよ」

「分かってるよ」

翔太は菜々美に赤いランドセルを背負わせて

そしてあの「赤い靴」を履かせ手を引いて家を出た。

菜々美はまだ慣れていないために翔太に手を引かれながら

恐る恐るついてきた。

「みんな集まったかな?」

係のPTAのおばさんが一人一人を確認してから

ぞろぞろと十数人の小学生が歩き始めた。

「菜々美」

「なぁに?」

「まだ慣れないだろうけど、保育園の時と同じと思うんだよ。

菜々美は活発なんだから今まで通りすればいいんだよ」

「うん、分かった」

菜々美は翔太を見上げるとにっこりと微笑んだ。

始業式が始まった。

校長先生が生徒全員の前でまず例の話をした。

「みんな、ニュースで知っているだろうけど、UFОがそのうち

この下田の上空にも来ます。

その時は真っ暗になるでしょうけど

決して怖がったりしないようにしてください」

その話のあとは、いつもの朝礼と同じだった。

一時間目は算数の時間。

翔太はあまり気がのらずぼんやりとしていた。

ほかの生徒たちも

そして肝心の先生も気がのらないようだった。

みんなUFОのことばかり気になって

浮足立っているような雰囲気だった。

ひょっとして自分が遠くの惑星に連れて行かれるかも

しれないのだから当然なのだが。

そんな、茫然とした新学期最初の授業が終わり

翔太は一年生のクラスに行って菜々美を探した。

一年生の教室は活気に満ちていた。

あまりUFОのことなど気にしていないようだった。

やっぱり一年生はまだ子供だなあと翔太は思った。

「菜々美」

「あっ、おにいちゃん」

「そろそろみんな集まっているよ」

「うん、今したくするからちょっと待っててね」

帰り道も集団下校だった。家のそばで解散になった。

「ねえ、おにいちゃん」

「どうしたの」

「目の前に山があるでしょ」

「うん。でも、それがどうしたの」

「こないだ、お寺に行った時にね、やさしい仏様の顔を見たでしょ」

「ああ、禅仙寺のことね」

「それからね……、菜々美、目の前の山を見ると

仏様がにこにことしているように見えるの」

「へえー。おにいちゃんはそんなふうに感じたことないけど……。

菜々美には特殊な感性があるのかもね」
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