第3話

文字数 3,727文字

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「菜々美!

カモメがサンドイッチを狙っているから

膝の間に隠しな!」

翔太はそう叫ぶと

急いで菜々美のビットに行って

菜々美のサンドイッチをリュックにしまった

「お兄ちゃん、ケガはなかった?」

「ああ、大丈夫。

でも、サンドイッチは海に落ちちゃったよ」

カモメが手に当たった瞬間の

ズッシリとした重み

そして肩のそばを過ぎるときの

ガタイの大きさに翔太は驚いた。

(遠くを飛んでいるカモメは

小さくて優雅に見えるけどなあ)

ふたりは、しばらく海を眺めていたが

菜々美がとつぜん発着場の方目掛けて

駆け出して行った。

横から海風を受けて

真っ白なコンクリートの上を

赤い靴が走って行く。

「急に駆け出すと危ないよ」

翔太は菜々美に向かって叫んだ。

「だって、この赤い靴で走ってみたいの」

菜々美がこちらを振り返ってそう叫んだ。

彼は仕方なしに妹を追いかけた。

一年生にしては足が速い。

(こりゃ、本気出して追いかけなくちゃ)

しばらく走ると広い芝生に出た。

菜々美は

地平線まで続いているのかと思えるほど

広い芝の上を脇目もふらずに走る。

追いかける翔太は

赤い靴しか目に入らなかった。

その赤が芝生のみずみずしい緑の上で

気持ちよさそうに跳びはねている。

しばらくすると

さすがの菜々美も疲れたようで

芝生に仰向けになった。

肩を上下させて荒い呼吸をしている。

翔太も妹の横にしゃがんで呼吸を整えた。

そして、近くに立っている

観光者向けの看板に目をやった。

「まどが浜海遊公園」

という大きな文字の下に

注意事項がいろいろと書いてある。

ここは観光者向けというよりも

地元の人たちの憩いの場になっているのだ。

「はあ、はあ、この赤い靴、大好き! 

はあ、はあ。

だって、履きやすいし走りやすいし」

「でもさあ、はあ、はあ

そんなに全速力で走ったら、

はあ、はあ、転んでしまうよ」

「この赤い靴なら、はあ、はあ、

大丈夫だもん、はあ、はあ」

翔太も芝生に寝転んでしまった。

しばらく横になって

呼吸も落ち着いてきた彼は

芝生に目をやった。

ふたりの横には

ピンク色の小さな花が密生していた。

下田の春は

路傍に様々な花が自然に咲いている。

赤い花、黄色い花、青い花。

さらに海はエメラルドグリーンだし

目の前には緑豊富な山が迫っている。

色彩にあふれた土地なのだ。

「ここに咲いている赤い花、

菜々美の髪にさしてあげようか」

「だめ! 

せっかく咲いているお花を抜いたら

可哀想じゃない」

「そっか」

二人ともしばらく芝生に仰向けになった。

「そろそろ帰ろうか」

「うん」

「松陰の道を行こう」

「いいよ、菜々美は海沿いの道が好き。

でも、なぜ『しょういんのみち』

っていうの?」

「昔ね、吉田松陰ていう偉い先生が

この道を通って、そこに見える弁天島に

行ったんだって。

詳しくは父さんに訊いてみな」

二人は黒船発着場の横を抜けると

海岸沿いに歩いた。

コンクリートの道のすぐ横が

もう浜辺になっている。

小さな浜だが打ち寄せる波は穏やかで

規則的な潮鳴りが心地いいと翔太は思った。

次第に弁天島が近づいてきた。

島といっても実際は半島のように

海岸と繋がっている。

大きさも

三階建ての小振りのマンションぐらいだ。

(かつて吉田松陰がここを歩いて

あの島に渡り、夜中に小舟で黒船のところ

まで行ったんだなあ)

彼はここを歩くたびに

社会科で習ったその夜のことを

映画でも見ているように頭に描くのだ。

弁天島の横から玉泉寺の横を通り

急な坂を上るとそこが二人の家だ。

まだ、父親と母親は帰って来てなかった。

菜々美は玄関で赤い靴を丁寧に磨き

ほれぼれと見つめてから

靴箱の一番上にそーっと置いた。

ふたりとも疲れたので

リビングのソファーに横になった。

まもなく父親と母親が帰ってきた。

ふたりでレジ袋を四つも下げていた。

「さあ、お昼にしましょう」

「ちょうどお昼のニュースの時間だな。

UFОはどうなったかなあ……」

父親は

早速テレビのリモコンのスイッチを入れた。

# # # # # # # #

「ニュースの時間です。現地の高橋さん。

何か動きはあったでしょうか?」

「はい。

国連では緊急安保理事会が開催されました。

えー、情報によりますとですね。

三体の宇宙人がとつぜん安保理事会に

瞬間移動して状況を説明したようです。

彼ら、
と呼んでいいのかどうか分かりませんが、

外見は地球人とまったく同じだそうです。

たった今、会議が休会になりまして

これまでの成り行きが公表されました。

その要点をお伝えします。


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ここからは、パソコン向けです

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「菜々美、カモメがサンドイッチを狙っているから

膝の間に隠しな!」

翔太はそう叫ぶと急いで菜々美のビットに行って、

菜々美のサンドイッチをリュックにしまった。

「お兄ちゃん、ケガはなかった?」

「ああ、大丈夫。でも、サンドイッチは海に落ちちゃったよ」

カモメが手に当たった瞬間のズッシリとした重み、

そして肩のそばを過ぎるときのガタイの大きさに翔太は驚いた。

(遠くを飛んでいるカモメは小さくて優雅に見えるけどなあ)

ふたりは、しばらく海を眺めていたが、

菜々美がとつぜん、発着場の方目掛けて駆け出して行った。

横から海風を受けて真っ白なコンクリートの上を

赤い靴が走って行く。

「急に駆け出すと危ないよ」

翔太は菜々美に向かって叫んだ。

「だって、この赤い靴で走ってみたいの」

菜々美がこちらを振り返ってそう叫んだ。

彼は仕方なしに妹を追いかけた。

一年生にしては足が速い。

彼は(こりゃ、本気出して追いかけなくちゃ)と思った。

しばらく走ると広い芝生に出た。

菜々美は地平線まで続いているのかと思えるほど広い芝の上を

脇目もふらずに走る。

追いかける翔太は赤い靴しか目に入らなかった。

その赤が芝生のみずみずしい緑の上で

気持ちよさそうに跳びはねている。

しばらくすると

さすがの菜々美も疲れたようで芝生に仰向けになった。

肩を上下させて荒い呼吸をしている。

翔太も妹の横にしゃがんで呼吸を整えた。

そして近くに立っている観光者向けの看板に目をやった。

「まどが浜海遊公園」という大きな文字の下に

注意事項がいろいろと書いてある。

ここは観光者向けというよりも

地元の人たちの憩いの場になっているのだ。

「はあ、はあ、この赤い靴、大好き! 

はあ、はあ、だって、履きやすいし、走りやすいし」

「でもさあ、はあ、はあ、そんなに全速力で走ったら、

はあ、はあ、転んでしまうよ」

「この赤い靴なら、はあ、はあ、大丈夫だもん、はあ、はあ」

翔太も芝生に寝転んでしまった。

しばらく横になって呼吸も落ち着いてきた彼は、芝生に目をやった。

ふたりの横には、ピンク色の小さな花が密生していた。

下田の春は、路傍に様々な花が自然に咲いている。

赤い花、黄色い花、青い花。

さらに海はエメラルドグリーンだし、

目の前には緑豊富な山が迫っている。

色彩にあふれた土地なのだ。

「ここに咲いている赤い花、菜々美の髪にさしてあげようか」

「だめ! せっかく咲いているお花を抜いたら可哀想じゃない」

「そっか」

ふたりとも、しばらく芝生に仰向けになった。

「そろそろ帰ろうか」

「うん」

「松陰の道を行こう」

「いいよ、菜々美は海沿いの道が好き。

でも、なぜ『しょういんのみち』っていうの?」

「昔ね、吉田松陰ていう偉い先生がこの道を通って

そこに見える弁天島に行ったんだって。詳しくは父さんに訊いてみな」

二人は黒船発着場の横を抜けると海岸沿いに歩いた。

コンクリートの道のすぐ横がもう浜辺になっている。

小さな浜だが打ち寄せる波は穏やかで

規則的な潮鳴りが心地いいと翔太は思った。

次第に、弁天島が近づいてきた。

島といっても実際は半島のように海岸と繋がっている。

大きさも三階建ての小振りのマンションぐらいだ。

(かつて吉田松陰がここを歩いてあの島に渡り、

夜中に小舟で黒船のところまで行ったんだなあ)

彼はここを歩くたびに社会科で習ったその夜のことを、

映画でも見ているように頭に描くのだ。

弁天島の横から玉泉寺の横を通り

急な坂を上るとそこが二人の家だ。

まだ、父親と母親は帰って来てなかった。

菜々美は玄関で赤い靴を丁寧に磨き

ほれぼれと見つめてから

靴箱の一番上にそーっと置いた。

ふたりとも疲れたのでリビングのソファーに横になった。

まもなく父親と母親が帰ってきた。

ふたりでレジ袋を四つも下げていた。

「さあ、お昼にしましょう」

「ちょうどお昼のニュースの時間だな。

UFОはどうなったかなあ…」

父親は早速テレビのリモコンのスイッチを入れた。

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「ニュースの時間です。

現地の高橋さん。何か動きはあったでしょうか?」

「はい。国連では緊急安保理事会が開催されました。

えー、情報によりますとですね

UFОから三体の宇宙人がとつぜん安保理事会に

瞬間移動して状況を説明したようです。

彼ら、と呼んでいいのかどうか分かりませんが、

外見は地球人とまったく同じだそうです。

たった今、会議が休会になりまして

これまでの成り行きが公表されました。

その要点をお伝えします。

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