第4話

文字数 1,095文字

 3年生となり、いよいよ卒業後の進路を意識する時期を迎えた。「海外に関係する仕事に就きたいです」内容はともあれ国際文化を学んだという自負を持っていたキバヤシは、自分の希望を進路指導の職員に伝えた。できればOB面接にも行きたいですし、そう言うと職員は卒業生の進路一覧をPCで確認しながら、申し訳なさそうな顔で「残念ながら、今のところそういう仕事についている卒業生はいないね」と答えた。それを聞いたキバヤシはショックを受けることはなく「やっぱりな」とだけ思った。 正直なところ、自分の大学のOBが海外関係の仕事に就いていることは想像できなかった。進路一覧のデータベースを見せてもらうと、健康食品の営業、地元の不動産の営業、携帯ショップの店長といった就職先が多いことが分かった。そのリストにはなんと自分が勤めている居酒屋も含まれていた。PCのモニターから目を上げると、壁に「真に国際社会に通用する人材を育成する」という大学のポスターが貼られてあった。「これも一種のファンタジスタだ」キバヤシは心の中でそう呟いた。

 4年生の春を迎え就職活動が本格的にスタートした。キバヤシは愚直に自分の興味に従って、商社、航空会社、旅行会社、メーカーなど、海外に関係のありそうな会社は片端からエントリーシートを出した。そしてその全てに落ちた。面接にすら進むことはできなかった。一度大学のゼミの先生の紹介で海外協力関連のNGOを訪問したことがあった。妙に話がうまく進み、内定をもらえそうな段階まで来たところで、初任給が総額78,000円だったことが分かった。選考を辞退する旨を伝えると強く慰留されたが、そもそもそこで働く人たちの服装や顔つきも少し変わっているのも気になっていたので、キバヤシは丁寧に断りの言葉を伝え、新たなエントリーシートを書き始めた。
 世間の大学生たちが何かしらの内定をもらう時期になってもキバヤシの就職先は決まらなかった。アパートで一人過ごす夜、とらえようのない不安に覆いつくされそうになった時は、普段バイブルとして持ち歩いている就職ガイドのページを開き、声を出して読み返した。
「私はやすやすと希望の企業から内定をもらう学生よりも、何社落ちても血を吐く思いで朝までエントリーシートを書き続ける学生の側にいたい」
 慶応大学卒、外資系金融機関に就職後、就職コンサルタントして独立した筆者が言っていたからだ。
「そういうド根性と笑顔なら負けないぞ」キバヤシは今まで通りアルバイトを続けながら、アパートの部屋の鏡に向かい「わたしのニックネームはファンタジスタキバヤシです・・・」と面接の練習を繰り返した。
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