第5話

文字数 588文字

 気づけば季節は冬を迎えていた。周りの同級生たちも、本意か不本意かは別として何かしらの進路を決めていた。社会人生活までの束の間の執行猶予の中、ある者はサークルや部活のラストイベントに、ある者は卒業旅行の計画と資金稼ぎに、ある者は就職前に自動車免許の合宿にと、それぞれ忙しくなる時期だった。キバヤシは依然として結局一つの内定ももらえぬまま、バイトと自宅の往復を繰り返す日々を送っていた。
 4年になって授業がなくなった分時間の余裕もでき、バイト仲間ともたまに遊ぶようになった。ある夜、バイトリーダーが30を前にして地元のスーパー銭湯に正社員として就職することになったということで、お祝いの飲み会をすることになった。その飲み会で、キバヤシは19歳の専門学校の後輩と仲良くなり、二次会の店に向かう途中、酔っぱらった勢いでキスをした。唇の想像以上の柔らかさに、キバヤシは一瞬宇宙の向こう側が見えたような気がした。そして会がお開きになった後、キバヤシは自分でも信じられないような思い切りで駅前のホテルに誘った、後輩の女の子は黙ったままついてきて、キバヤシはその夜初めて女性を知った。しかし、ここでは不思議と宇宙を感じることはなかった。それからキバヤシはその子を何度か部屋に呼ぶようになり、その度に肌を重ねた。事が終わると後輩の女の子は黙って服を着て、自転車で自分のアパートに帰っていった。
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