第1話

文字数 552文字

 キバヤシは関東の大学に通う大学生である。東北の海沿いの寒村に生まれ、幼いころに父を亡くし、女手一つで育てられた。貧しいながらも勉学に励み、地元の数少ない高校の一つに進んだ。高校で優秀な成績を残したキバヤシは東京近郊の三流大学から推薦をもらい進学が決まった。大半が就職する仲間からは「東京行っても頑張れよ」と励ましの言葉をもらい、進路指導の先生からも「今年も本校から大学進学者が出たことを誇りに思う」と賞賛の言葉を掛けられた。自分がまじめに勉強してきたことは間違いではなかったと、キバヤシは人生で初めてとも言える強い達成感を覚えた。
 キバヤシは大学に入ったら国際文化を学びたいと考えていた。当然海外に行ったことはなかったが、本やテレビで触れる外国の暮らしや、世界史で学んだ外国の歴史に興味を持っていたからだ。「俺も大学行ったら留学とかしてみてえなあ」居間兼寝室に敷かれた布団の中で、キバヤシは自分が欧米やアジアの街並みを歩いているところを夢想した。隣では昼夜働き詰めの母親が疲れた寝息を立てていた。大学行ったら一人で寝れるな、そんなこともキバヤシにとっては大学生活の楽しみの一つだった。あとはサークル入ったり、文化祭とかやったり・・・眼前に広がる新たな世界を前にして、キバヤシは寝付けない日々を過ごした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み