「進むことは出来んだよ。諦めさえしなきゃ、な」
文字数 1,652文字
こうやって、入口から塔を見上げるのも何回目だろうか。
──つまり、ここで何回『死んだ』かってことだが。
諦めない限り挑み続けることは出来る。『死に戻』っても、それまでに書いた地図は有効だし、何度も戦えば敵の対処方法も固まってくる。なるべく敵と戦わず、最短距離で次の階まで行くまでの地図は、いずれ完成する。
だから、先に進むだけなら必要なことは一つ、だ。「諦めなければ」良い。
もう何度も同じ場所でやられるのはうんざりだとか、どうせこれほど死んでたら大して評価はされないだろうとか、先を行く奴らとどれくらい離されただろうかとか、そう言った心の声に耳を塞いで。
──もっとも、そこまでダメージ管理をしなきゃいけない理由は、回復魔法もろくに使えないせいなんだが。
そうやって、心の声に反論しながら進む。これまでもやってきたことだ。その反論の言葉に、あいつと会ったことでもう一つ加わるものがあった。何となく癪だが、認めては、いる。
たどり着けなきゃ、それはそれでムカつくのは分かり切ってんだ、と。
そうやりながら、あいつが言っていた5階にたどり着いて。
そしてあいつがああ言った理由は、到着するなりすぐに理解した。
『この階、魔法の使用を禁ずる。使用した場合、運営委員会によりこのフロアの入り口に強制的に戻すものとする』
真っ先に目に入るよう、そう看板が立てられていたからだ。
どう思えばいいのか。思わず乾いた笑いが出た。
でもまあ、そういやそうか。前回そういう異変が起きて、それでどれだけ大変だったか。伝えられているんだから、そりゃあその事態に対する対処能力を今回から求めるのは全く間違っちゃ、いない。
……別にオレにとっちゃ、これまでとほとんど変わらねえわけだが。
現れた敵の気配に、オレは身構える。
敵に飛び道具がねえなら、距離のある内がこの武器の一番の使いどころだ。穂先を突き出すように構え、突進の勢いを乗せて正面に居るゴブリンを刺し貫く。
取り囲もうとする気配。それぞれのおおよその位置を察知して、一番厄介な位置と思われる斜め後方の敵を、槍を引き抜く勢いそのままさらに肘を引いて、石突で突き飛ばす。
空間が開く。囲いから逃れるように、すべての相手が視界に入る位置に素早く移動する。
うち、最も距離が近い一体がこちらに近づいてくるのを、タイミングを合わせ、脳天目掛け思い切りハンマーを、振り下ろす!
先行させた一体が痙攣して地面に這いつくばるのを見て、今度は、二体同時に向かってくる。低い位置で薙ぎ払うように得物を振るい、近づかせない。一歩前を行く奴のブーツを鈎爪でひっかくようにしてバランスを崩させると、一度武器を引いてから、突く。
──勝手がわかってる相手ならもう、一度も相手の間合いに入らせずに無傷で勝つことだって、出来んだ。こいつとなら。
一先ず、周囲の敵を蹴散らしたのを確認すると、進んでいく。
誰かの焦った声に視線を向けると、すう、とその姿が掻き消えていくところだった。ついうっかり魔法を使ったんだろう。
また、誰かの悲鳴じみた声。熊の魔物の爪がその身体に刺さっている。まあ、幻だが。
言いながら、消えていく。
そうした奴らを横目に、オレは駆け抜けていった。
すれ違う何人かが、オレを見ているようだった。
間合いを支配し。あるいは敵の攻撃を払い落とし、攻撃を極力受けずに戦っていくオレに……!
……。