「進むことは出来んだよ。諦めさえしなきゃ、な」

文字数 1,652文字

こうやって、入口から塔を見上げるのも何回目だろうか。
──つまり、ここで何回『死んだ』かってことだが。
「それでも、進むことは出来んだよ。諦めさえしなきゃ、な」
諦めない限り挑み続けることは出来る。『死に戻』っても、それまでに書いた地図は有効だし、何度も戦えば敵の対処方法も固まってくる。なるべく敵と戦わず、最短距離で次の階まで行くまでの地図は、いずれ完成する。
だから、先に進むだけなら必要なことは一つ、だ。「諦めなければ」良い。
もう何度も同じ場所でやられるのはうんざりだとか、どうせこれほど死んでたら大して評価はされないだろうとか、先を行く奴らとどれくらい離されただろうかとか、そう言った心の声に耳を塞いで。
「別に、一番に到達したから勇者決定ってわけじゃ、ねえ。まずは登りきらなきゃ始まらねえんだ」
「敵どもの対策は問題ねえんだ。一回戦うたびにダメージは減ってる。修行してきたものは、無駄じゃねえ……!」
──もっとも、そこまでダメージ管理をしなきゃいけない理由は、回復魔法もろくに使えないせいなんだが。
「……うるせ」

そうやって、心の声に反論しながら進む。これまでもやってきたことだ。その反論の言葉に、あいつと会ったことでもう一つ加わるものがあった。何となく癪だが、認めては、いる。


たどり着けなきゃ、それはそれでムカつくのは分かり切ってんだ、と。

そうやりながら、あいつが言っていた5階にたどり着いて。


そしてあいつがああ言った理由は、到着するなりすぐに理解した。

『この階、魔法の使用を禁ずる。使用した場合、運営委員会によりこのフロアの入り口に強制的に戻すものとする』
真っ先に目に入るよう、そう看板が立てられていたからだ。
「はっ……は」
どう思えばいいのか。思わず乾いた笑いが出た。
でもまあ、そういやそうか。前回そういう異変が起きて、それでどれだけ大変だったか。伝えられているんだから、そりゃあその事態に対する対処能力を今回から求めるのは全く間違っちゃ、いない。
……別にオレにとっちゃ、これまでとほとんど変わらねえわけだが。
現れた敵の気配に、オレは身構える。
敵に飛び道具がねえなら、距離のある内がこの武器の一番の使いどころだ。穂先を突き出すように構え、突進の勢いを乗せて正面に居るゴブリンを刺し貫く。
取り囲もうとする気配。それぞれのおおよその位置を察知して、一番厄介な位置と思われる斜め後方の敵を、槍を引き抜く勢いそのままさらに肘を引いて、石突で突き飛ばす。
空間が開く。囲いから逃れるように、すべての相手が視界に入る位置に素早く移動する。
うち、最も距離が近い一体がこちらに近づいてくるのを、タイミングを合わせ、脳天目掛け思い切りハンマーを、振り下ろす!
先行させた一体が痙攣して地面に這いつくばるのを見て、今度は、二体同時に向かってくる。低い位置で薙ぎ払うように得物を振るい、近づかせない。一歩前を行く奴のブーツを鈎爪でひっかくようにしてバランスを崩させると、一度武器を引いてから、突く。
──勝手がわかってる相手ならもう、一度も相手の間合いに入らせずに無傷で勝つことだって、出来んだ。こいつとなら。
一先ず、周囲の敵を蹴散らしたのを確認すると、進んでいく。
「あっ!?」
誰かの焦った声に視線を向けると、すう、とその姿が掻き消えていくところだった。ついうっかり魔法を使ったんだろう。
「ち、っくしょ……!」
また、誰かの悲鳴じみた声。熊の魔物の爪がその身体に刺さっている。まあ、幻だが。
「またアウトかよ、くそ……! 回復なしでどうしろってんだ!?」
言いながら、消えていく。
そうした奴らを横目に、オレは駆け抜けていった。
すれ違う何人かが、オレを見ているようだった。
「え、あの人なんかすごい? え、ああやるの?」
「長柄武器が正解、ってことですか? でもそんなの……!」
間合いを支配し。あるいは敵の攻撃を払い落とし、攻撃を極力受けずに戦っていくオレに……!
「な、なんかズルい! あの鈍器!」
……。
「……ま。鈍器で良いけどよ。オレは別に」
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登場人物紹介

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

ウェノー・ティリード。

実家が武器屋で武芸は十分、魔力も豊富でついでに見た目も申し分ないと、今回の勇者選抜会における有力候補とも目される存在。だが事情により、本人はあまり勇者になることに乗り気でない。実家が実家のため、武器のことになると時折変なスイッチが入って熱く語っちゃう癖がある。その悪癖がきっかけでシグと出会い、彼こそ勇者と称え何かと関わってくる。

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

シグ・グライアンス。

前回の『魔界化』の影響で魔力に乏しい地域に生まれ、本人も魔力が弱く魔法の才能がない。その分、武器の選択と習熟で勇者を目指した努力の少年。貧しい故郷を救うため勇者に選ばれたいと願いつつも現実も理解しておりコンプレックスを抱いている。そのため、関わってきたウェノーからはうさん臭さを拭えない。

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