「そろそろ回想シーン終わった?」

文字数 1,955文字

……いや。

自分のことを思い出してみれば、こいつの、「武器屋だから勇者になりたくない」なんてこだわりを馬鹿には出来ないのかもしれない。

己の心の在処だけを起因とする不自由な二択。つまりは……そんな話なのだから。

……オレの故郷は、魔力の乏しい土地だった。前回の『魔界化』による異変でそうなったのだという。別に作物が育ちにくいとかそう言った悪影響はないが、畑を掘り返すための土魔法などを使うと明らかに効果が弱い。要するに俺の故郷周辺では極端に魔法が使いにくく、当時の勇者もこれには苦戦したらしい。
もっとも、戦いなど経験しない多くの者にとっては魔法がそれほど効かないという事は「不便だけどそこまで致命的でもない」ものであったし、例の『魔界化』の際、一致団結し守り通した村、そのための犠牲も少なくなかったという事で、世界が正常化した後、捨てずに残ることを選択したものは多かった。
変化が起きたのは、数十年前だ。己の人生の間に『魔界化』が起こることを意識し始めた世代。その時に若者たちが、「この村に未来がない」事を説き始めた。魔力に乏しいため誰もろくに魔法を使えず、そもそも生まれてくる子供が皆、魔力が弱い。この村から勇者が出ることは永遠にないから、潤う事は永遠にないのだ、と。
……勇者の存在に復興の望みをかけるのがそもそもあまりまともな話ではないが、一縷の望みをかけることすらできない、『魔界化』が始まれば、勇者が来るまでの苦難がもう約束されているという事に同調する若者は意外といて、村を離れるものが増え始めた。
去る者たちは過去に縋り付き己の幸せを捨てることの愚かさを罵った。その横顔にはやりきれない後ろめたさが隠せていなかった。
残る者たちは丁寧に真摯に英霊たちの碑に向かうようになった。その横顔には己の愚かさ加減を理解している自虐があった。

──……オレの両親は「捨てられない」側の人間だった。だからオレは、どちらの横顔も見ながら育った。


どちらが正しいとも、どちらを責める気にもなれなかった。ただ、選ばされる理不尽が憎かった。

『オレが勇者になってやる! もう誰も悩まなくてもいいように!』
そう宣言したオレを、村の人が優しく頭を撫でてくれたり、笑って背中を叩いてくれたりしたのは、オレの年齢が一桁くらいまでのころだ──
「……お。そろそろ回想シーン終わった?
「何でんなタイミングで分かったようなこと言えんだよあんたは!?」
「何で、って言われると。俺が故郷云々言ったあたりから遠い目しだしてるから、ああ、勇者を目指す動機がその辺にあって思い出してるんだろうなと。で、目の色が戻ってきたからそろそろかなーって」
「メタ発言ギャグとかじゃなくて普通にガチの観察結果かよ……!」
「違ってた? いいところで邪魔しちゃったならもうちょい待つけど?」
「合ってるから余計に腹立つんだよ……! どの道今更んな気になれるかぁっ!」
「そっか。で、自分がここに来た理由を再確認してみてどう?」
「……っ! あのな、言っとくがオレは──」
「ああ、ちなみに別に言わなくていいよ? 俺は君に同情で手を貸したくはない応援するのは君のその技術を讃えてって理由だけで十分だ」
「まだ気持ちの整理がつかなくて、言葉にして聞いてほしいってんならそれを手伝うくらいの気持ちもあるが」
「……」
「……いや。いい」
「そうか。……それじゃあ」
「実際のところ、応援したくとも、ここのルールじゃやれることは限られてる。から、二つだけ言わせてほしい」
「君は、君の不得手とするはずの敵を克服する寸前だった。俺の邪魔が入ったせいでそこを勘違いしないでほしい。せいぜい、『死に戻り』の回数を一回減らしただけの誤差だよ。あれは」
「それでも遅れを取ったことに焦りを感じてるかもしれないから。これはこっそりと言っとくけど、5階までは絶対に来い。どれほど遅れたと思っても、そこまでは諦めるな」
「……は?」
「じゃあ、これ以上互いに時間を無駄にしても仕方ないから、君に言いたい事がないならここまでにしよう。じゃあね。多分5階のどっかで再会することになると信じてるよ」

……。


オレが何も答えられずにいると、そいつはくるりと身を翻して行ってしまった。
「……いや、なんだったんだよ」
「……『信じてる』なあ……」

村を出立するときのことを思い出す。


最終的に、村の皆はオレの挑戦を認めてくれて、送り出してくれた。

『分かった。お前の熱意には負けたよ』


『とにかく、精いっぱいやってこい。十分頑張ってきたよ、お前は』


……そんな言葉で。

思えば、挑戦しようとする心意気自体は認めてくれたが、『信じる』と言ってくれた人は──いなかった。両親でさえ。
「5階、なあ。ほんと、何だってんだ……」
確かめないわけに、行かなくなったじゃねえか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

ウェノー・ティリード。

実家が武器屋で武芸は十分、魔力も豊富でついでに見た目も申し分ないと、今回の勇者選抜会における有力候補とも目される存在。だが事情により、本人はあまり勇者になることに乗り気でない。実家が実家のため、武器のことになると時折変なスイッチが入って熱く語っちゃう癖がある。その悪癖がきっかけでシグと出会い、彼こそ勇者と称え何かと関わってくる。

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

シグ・グライアンス。

前回の『魔界化』の影響で魔力に乏しい地域に生まれ、本人も魔力が弱く魔法の才能がない。その分、武器の選択と習熟で勇者を目指した努力の少年。貧しい故郷を救うため勇者に選ばれたいと願いつつも現実も理解しておりコンプレックスを抱いている。そのため、関わってきたウェノーからはうさん臭さを拭えない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色