「俺には勇者になることに消極的になる理由はあるじゃん」
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「ただ実際、俺には勇者になることに消極的になる理由はあるじゃん」
「……『家が武器屋』、つったよな。そういうことか……」
「ご名答。『俺が勇者になる』というか、正確には『俺の町が勇者の故郷になる』ことは気が進まない」
数年後に控えた『魔界化』に備え、国連軍による環境の整備が行われるのである。
折角神の祝福を受けた勇者が、故郷周辺からろくに身動きできずに嵌まり、各地で観測された異変の対処が遅れるという事態を防ぐための措置だ。
凶暴化しそうな魔物や肥大化しそうな『魔物の泉』は早期に対策が取られ、『魔界化』したその後も勇者の故郷周辺には強大な魔物は出現しないようにあらかじめ『調整』される。
かくして勇者は旅立ち当初は弱い敵から適切な経験を積んで、その経験を生かして旅して各地のトラブルを解消しながら成長を続け最終的に魔王の討伐に至るというあらすじが完成する訳だ。
──なお、国連軍がきちんとあるならなぜ各地の異変と魔王討伐を勇者一人に負わせるのか、という疑問についてだが。
これは、神から勇者に与えられる祝福とはズバリ『どんな死に方をしても最後に神の祝福を受けた場所で復活する』というものだからだ。『魔界化』による各地の異変、魔物の変異については神にも予測が不可能なため、『初見の異常事態』を勇者が死にながら覚えることで対処させるのである。
さて、そんなわけで『自分の町が勇者の故郷になる』ことは、大体の住民は大歓迎する。
なにせ『魔界化』してもある程度以上の安全が約束されるのだ。近隣の町との交易もさほど制限されないし、単純に、莫大な移民税を払ってでも移住したいという希望者は殺到して、町の財政は大いに潤う。
その例外があるとすれば、武器屋というわけだ。周囲に弱い魔物しか出なくなるとなれば、当たり前だが武器の需要は著しく下がる。最低限の魔物や害獣が追い払えればいいのだから。
「──無口で頑固なおやじだけど、職人としては本当に尊敬してるからさあ……なんかこう、ひのきの棒とこん棒だけを細々と作って売ってる姿は想像したくないんだよね……」
「あーここで突っ込まれるのそこなんだー。無口無口。ずっと朝食一緒に食べてるけど目玉焼きの時に取ってほしいのがケチャップじゃなくて塩だって気付くのに8年かかった」
「とっとと言えよそんなもん! お前ら喋る量足して二で割れ! いいから!」
「……言われてみるとそーだな。意外と頑固でもないのかも。俺は親父のことをずっと誤解してたかもしれない……」
「待て。今何の話してんだオレら。話を戻すぞちょっと整理させろ。いいか少しの間何もしゃべるなあんたは」
「今までの紆余曲折全部俺のせいかなあ。割と君の突っ込み気質の所為もない?」
「自覚してるから黙っててくれってんだよ! 畜生が!」
「……。よし。真面目に聞くぞ。あんた勇者になる気がねえならそもそもなんでここに来てんだ」
「訓練所で一番になっちゃったからねえ。しかも突出して。もう、滅茶苦茶地元の期待を背負っちゃってさ」
(まあ、それは、さっきの魔法の威力と正確さからなんとなく理解はしてたが)
「多分君も突っ込みたかったと思うけどさ。別に生活できなくなるわけじゃないんだよちゃんと補助金も出るし。俺だって地元愛はあるし、故郷の発展と天秤にかけるほどのこだわりかっていうと微妙でさ」
「まあそもそも、決まる前から悩むのもどうなんだろう、と」
「散々悩んだわりに割と身も蓋もねーところに落ち着いたな……」
「いやでもそうでしょ? よく考えなくても全世界から選ばれた才能が競い合うんだからさ。そんな。地元で一番とったくらいでさっさと『俺に決まったらどうしよう』って悩むのも失礼っていうか痛々しくない?」
「だからまあ、もし、本当に俺が選ばれちゃったら……まあ、本当にそれが俺の故郷のみならず世界にとっての最適解なら受け入れるけどってことにしつつ」
「多分、『頑張ったけどもっとすごい人がいて駄目でした』って堂々と言えるのが一番ほっとするかなって気がしてる。俺の故郷は、それなりにしっかりしてるからね。『魔界化』しても、これまでのノウハウで町を守り切るならできるくらいの自力はあると思ってるし」
他人のことを気にしても仕方がない。オレはオレのやり方で精いっぱいやるだけだ。何度もそうやって覚悟し直してこの場に挑んだはずだった。それでもやっぱり、魔法がろくに使えないという現実は厳しいと思い知ったところで、オレが得られなかった才能を見せつけられて。
その上でこいつは、故郷も恵まれてるのかと。それこそ……何にもならないしこいつは何も悪くないと分かっていながら、思わずに居られなかった。
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