「こいつをやったのはあんたか」

文字数 1,115文字

「別に鈍器だのポールアームだのはどうでもいいけどよ」
「いやどうでも良くないよ!?」
「ああめんどくせえ! 分かったから一旦そこはさておけ!」
「ええー? まあ、はい」
「……。んなことより、こいつをやったのはあんたか」
そう言って、オレはオレの足元の転がっている遺骸をちょいちょいと──さっきこいつが語った武器の石突で──指して見せた。
オレがさっきまで戦っていた相手。硬い外殻を持つ虫の魔物が五体。そのうち一体だけが氷漬けになって死んでいる。
「あー……」
「はい。申し訳ありません。私がやりました」
政治家の謝罪会見か!? 急にテンション落ちたな!」
「いや、悪いことしたとは思うんだ本当。ごめん」
「悪いことしたって……いや」
責めるような言い方をしておいてなんだが、そう来られるとなんだか違う気もしてきた。
「あー、確認するぞ。あんた、オレと戦ってるこいつを後ろから撃ったんだよな」
「は。そのように言われますとその。結果的にそうなったとも言えるのかなと。いえ、はい。おっしゃる通りで」
だからなんで謝罪会見ノリになるんだよ。つまり……なんでんなことしたのかってことだよ」
「……」
「互いに意味ねえのは分かってんだろ?」
「……そうだね。この『塔』での戦いで助太刀や横入による討伐は殆ど意味がない。あくまで参加者の資質を見る場所だからね」
そいつがわざわざ持って回った説明をして見せたのは、状況をきちんと分かっていることを示して見せるためだろう。
この、『塔』。四年後に控えた世界の『魔界化』、『魔王の出現』に備えての、勇者を選別するための試練の塔。
オレたちは、互いにそこで競い合うライバル同士、だ。助け合う理由はない。
『死にそう』なことですら、ここでは気を使う必要はない。なぜならここで行われるすべては高度な幻影で、死すら幻だからだ。敵の攻撃に苦痛はなく、ただ死んだとみなされたらこの選考会を運営している連合国選抜魔法師により入口に戻される。それだけ。
「だからまあ、意味を聞かれると答えはこうだね。意味はない。つい、弾みで、だ」
「つい……弾み、なあ……」
……そんなところだろう。分かってはいた。予想通りの、求めていた返事にたどり着けて、オレはようやく、遠慮なく顔を顰めて、ため息を吐くことが出来た。
「悪気はなかったんです! 秘書が勝手に!」
そのノリまたやるのかよ!? 誰だよ秘書って!」
……これだけ聞くために、やたら疲れた気はするが。──オレはただ、分かっちゃいるけどちゃんと納得して、そしてムカつきたかっただけだってのに。
「……要するに、同情ってことで良いんだな」
「同情? なんで?」
──なのに、こいつの言葉は、そこからは全くオレの予想の外だった。
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登場人物紹介

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

ウェノー・ティリード。

実家が武器屋で武芸は十分、魔力も豊富でついでに見た目も申し分ないと、今回の勇者選抜会における有力候補とも目される存在。だが事情により、本人はあまり勇者になることに乗り気でない。実家が実家のため、武器のことになると時折変なスイッチが入って熱く語っちゃう癖がある。その悪癖がきっかけでシグと出会い、彼こそ勇者と称え何かと関わってくる。

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

シグ・グライアンス。

前回の『魔界化』の影響で魔力に乏しい地域に生まれ、本人も魔力が弱く魔法の才能がない。その分、武器の選択と習熟で勇者を目指した努力の少年。貧しい故郷を救うため勇者に選ばれたいと願いつつも現実も理解しておりコンプレックスを抱いている。そのため、関わってきたウェノーからはうさん臭さを拭えない。

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