「こいつをやったのはあんたか」
文字数 1,115文字
そう言って、オレはオレの足元の転がっている遺骸をちょいちょいと──さっきこいつが語った武器の石突で──指して見せた。
オレがさっきまで戦っていた相手。硬い外殻を持つ虫の魔物が五体。そのうち一体だけが氷漬けになって死んでいる。
責めるような言い方をしておいてなんだが、そう来られるとなんだか違う気もしてきた。
そいつがわざわざ持って回った説明をして見せたのは、状況をきちんと分かっていることを示して見せるためだろう。
この、『塔』。四年後に控えた世界の『魔界化』、『魔王の出現』に備えての、勇者を選別するための試練の塔。
オレたちは、互いにそこで競い合うライバル同士、だ。助け合う理由はない。
『死にそう』なことですら、ここでは気を使う必要はない。なぜならここで行われるすべては高度な幻影で、死すら幻だからだ。敵の攻撃に苦痛はなく、ただ死んだとみなされたらこの選考会を運営している連合国選抜魔法師により入口に戻される。それだけ。
……そんなところだろう。分かってはいた。予想通りの、求めていた返事にたどり着けて、オレはようやく、遠慮なく顔を顰めて、ため息を吐くことが出来た。
……これだけ聞くために、やたら疲れた気はするが。──オレはただ、分かっちゃいるけどちゃんと納得して、そしてムカつきたかっただけだってのに。
──なのに、こいつの言葉は、そこからは全くオレの予想の外だった。