「どうしても突っ込んでおきたいことがあるんだが」

文字数 1,484文字

一気に中ほどまで突き進んで、少し不安を覚え始めた。
無論、別に今更。改めて『死んだ』ところでどうってことはねえが。
『多分5階のどっかで再会することになると信じてるよ』
「まだ、居ねえ、な。あいつまさかもう、この階も突破してねえか」
ここに来るまでにオレが『死んだ』回数を思えば有り得そうな話でもあった。いや、そう言えばオレは魔法以外のあいつの実力はまだ、知らないが。
……別に、それすら、「だから何だ」という話ではあるんだが。


ただやっぱ、そうだと、少し癪だな、とは思った。

そんな風に思いながら、この階の地図の2/3程を埋めたところで……
……そいつは、居た。
三匹の魔物に囲まれながら戦っている。正面の敵が動かなくなったところで、鷹の魔物が旋回し、側面から急降下して襲い掛かろうとする。


そいつは振り向いて……よけきれないと悟ると同時に、ついでに、オレが視界に入った……ように見えた。

苦笑するような、申し訳なさそうな表情に変わった気がして──オレは、何かを、悟って。
「悪ぃ」
「ついなんか、勢いでだ」
鷹の魔物を、オレの武器の穂先が貫いて止めていた。
「あー……まあ、文句言える立場じゃないよねえ、うん。やられてみると微妙だなあ」
「まあ、誤差だよ誤差。あと一回食らったら多分死ぬから、どのみち今回は死に戻りかなー」
言いながらも、そいつは最後の一体を冷静に討ち倒していく。
「いやだが、無意味でもないか」
「まあ、再会するっつっといて一瞬で、てのもなんだしな」
「うん。それに初死亡を君に目撃されるってのも良く考えたら結構凹むかもしれない」
「……」
……あんたここまでノーデスかよ!?
それ……どう考えても、ここでもぶっちぎりの成績じゃねえのか……。
「いやあまあ、ほどほどに引き返してただけだよ」
「それにしたって初見殺しな相手は結構いると思うが……」
「……いや、ここをまともに渡り合う剣技があって、その上魔法も飛びぬけてんなら、有り得る話か……」
結局、──
「結局、俺の努力は何なんだろう、とか思ってたりする?」
「……ためらいもなく図星ついてきやがるなあんた。どんなに頑張っても足りねえもんがある気持ち、わかるのかよ?」
「うん」
「正直に言えば、俺の今の成績はこの塔の特性に甘えてる」
「……は?」
「いい加減はっきり言わせてもらおう。俺はめったにできないんだよ。『切り落とし』」
「あ? ちょっと待て、話についていけね──」
「武器屋の息子でありながら、魔法の才能を伸ばしたのは、武器が傷つくのが嫌だからだ。……かといって、飾り物にして使わないのは、もっと嫌だがね」
「だがこんな次善のやり方じゃなくて、もっと武器と心から一体化できるような技術を身につけて挑みたかったよ」
「……その武器の使いこなしっぷりといい、君の判断力と反応速度ははっきりって頭がおかしい。俺に言わせればね」
「それは……オレが……」
「やむを得ず身につけるしかなかった、とでも言うつもりか? ……まあ実際、執念の賜物で、俺にその執念が足りなかったという話と言うなら否定は出来んが」
「君が『魔法の代わりにしょうがなく』程度に思っている才能は。俺が、欲しくてもどうしても手に入れられなかったものなんだよ」
「──だからあんまり、俺の前では自分のことを卑下してくれなさんな」
言ってこいつは、オレの前ですらりと武器を抜いた。

何かを思い詰めるように、じっとそれを見つめている。

「……何か言いたいことはあるかい」
「──そうだな。敢えて言うなら一つだけ。どうしても突っ込んでおきたいことがあるんだが」
……あんだけ鈍器鈍器言っておいて剣使ってるのかよ!?
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登場人物紹介

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

ウェノー・ティリード。

実家が武器屋で武芸は十分、魔力も豊富でついでに見た目も申し分ないと、今回の勇者選抜会における有力候補とも目される存在。だが事情により、本人はあまり勇者になることに乗り気でない。実家が実家のため、武器のことになると時折変なスイッチが入って熱く語っちゃう癖がある。その悪癖がきっかけでシグと出会い、彼こそ勇者と称え何かと関わってくる。

※「Girls」で作成しましたが、男キャラです。

シグ・グライアンス。

前回の『魔界化』の影響で魔力に乏しい地域に生まれ、本人も魔力が弱く魔法の才能がない。その分、武器の選択と習熟で勇者を目指した努力の少年。貧しい故郷を救うため勇者に選ばれたいと願いつつも現実も理解しておりコンプレックスを抱いている。そのため、関わってきたウェノーからはうさん臭さを拭えない。

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