サニーサイドアップ

文字数 790文字

 さて。
 ここに焼きたての食パン2枚と、目玉焼きとサラダがある。この組み合わせは実にシンプルな洋風朝食だろう。しかし、無限の可能性を秘めていることにどれだけの人間が気づいているだろうか?
 まず食パン。何をつければいい? 芳醇なまったりとしたコクのあるバターか。それとも熟れたいちごを砂糖と一緒にコトコト煮込んで作った、自家製ジャムか。同じように作ったマーマレードもある。いや、ここはピーナッツバターという手もある。もしくは搾りたてのミルクに浸して食べるという手段も。
 そして次に視線をやった目玉焼き。この目玉焼きーーサニーサイドアップだがーーこれも何をかけようか迷ってしまう。シンプルイズベスト、いつも通りの塩コショウか? それとも和食テイストで醤油か? ソースもトマトケチャップもある。どれも試したことがあるが、等しくおいしいから迷ってしまう。
 サラダにももちろん選択肢が多数ある。これも塩コショウとオリーブオイルというクラシックスタイルもあれば、冷蔵庫にはドレッシングがいくつか。現代社会の食への探究心はすごい。たかだかサラダにかけるドレッシングでも、それこそ種類は数え切れないほどだ。
「あなた、食べないの? まぁた何かくだらないことで悩んでるんでしょ」
 食パンに目玉焼きとサラダを乗せ、塩コショウを振って食べ始めた妻が、いたずらっ子のような瞳で私を見つめる。
 ……その手があったか。
「ずるいぞ」
「えぇ? 何が?」
「……全部乗せじゃないか」
「やっぱりくだらないことを考えていたみたいね。別にあなたも好きに食べればいいでしょ?」
「むう……」
 好きに食べればいいと言われると、悩んでしまうのが堅物な私だ。
 ーー好きに選べてよかったものは、この天真爛漫な妻くらいなのだからな。
 妻と一緒の朝食を、どのように食べようか。それはつまり、「妻がいればなんでもいい」ということでもあるのだ。
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