バーナー

文字数 811文字

 研究室にあったのは、カップ麺がふたつ。きつねうどんとかき揚げそばだ。さて、どちらを食べようか。仲間がいるときだったら必ずどちらか選ばないといけないけど、今日はひとりだし、どちらも食べてしまおうか。
『あー、先輩俺うどんがよかったんですけどね』
 そんな声が聞こえてきてしまうところが、冬のあまり暖房の効いていない部屋の怖いところだ。
 きっとみんながいたら、後輩研究員とかき揚げそばかきつねうどんかを取り合ったあと、教授が出てきてこう言うんだ。
『君たちはまた栄養不足で倒れるぞ。せめてコンビニの1日分の野菜が摂れる鍋にしなさい』。
 ああ、教授と言えば。僕は結局かき揚げそばにお湯を入れながら、あることを思い出す。
 目黒の秋刀魚のイベントがあった日だったっけ。「みんな、秋刀魚だぞー!」と、どこからか生の秋刀魚を持ってきたのだ。もちろん生で秋刀魚なんて食べられないし、一同は困ったのだが、「こうすればいいだろう?」といきなり研究室にあったガスバーナーで秋刀魚を焼き始めたのだ。今思えばとんでもない教授なのだが、研究員は大抵仕事疲れでハイになっているので、歓声の声が上がった。どうしようもない研究室だ。しかもバーナーで炙った秋刀魚の中身がなかなか焼けないものだから、最終的に表面が炭になってしまった。
 それでも、みんなでつついた秋刀魚はおいしかったなぁ。
 そんなことを思い出しながら、3分経ったかき揚げそばを口にする。ーーそうだ、正月明け、研究室に餅を持ってこよう。そしたら教授がきっとバーナーで火炙りにするだろう。みんなはその様子を見て喜んで、餅を食べる。今から正月明けが楽しみだな。今夜は寂しい夜だけど、明けない夜はないってよく言われている。証明はされていないけどね。
 今の研究の結果を出すのは、途方に暮れるくらい時間がかかるかもしれないけども、このひとりで寂しい夜と同じで、研究の先がきっとある。そう信じて今夜も頑張るのだ。
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