フードコート

文字数 1,456文字

 都会の人間は孤独だ。いや、正しくは『都会の人間』と言うより、『現代人は孤独だ』。結婚したくとも相手を探すのが時間的にも金銭的にも難しい。友達と対面で会って食事をするにしても、仕事柄超絶多忙でそんな時間が取れないというのが現状。これが専業主婦だったら、きっと「お友達とランチなの」なんて言っていいものを食べられるんだろうな、という一種のやっかみのような感情を抱いてしまうから手に負えない。
 そんな俺だが、今日は仕事の打ち合わせのため都を抜け出して茨城の終点駅に来ている。駅に到着した瞬間、急激に腹が空いた。そう言えば、朝ご飯食べてなかった……いや、下手したら何日くらいまともな食事をしていないんだ? ああ、まだ10時半だというのに、完全に胃はすっからかんだ。
 とりあえず、何か食べておくなら今しかないだろう。打ち合わせ場所は駅からバスで15分の、周りにレストランもカフェもない施設だ。コンビニで昼食を買ってそこで食べる……もしくは施設に食堂はあるが、打ち合わせが終わるまで確実に持たないし、途中で腹がぐーぐー鳴るだろう。それは避けたい。
 俺はとりあえず駅ナカのフードコートで早すぎる昼食を食べることにした。大体フードコートが開く時間は11時過ぎだったりするが、そこは運良くもうすでに開店していた。
 さて、何を食べようか? そのとき、ひとりの老女が目に入った。老女は四人がけのテーブルにひとりで座っている。まぁ空いているからそれは問題ないだろう。眼前のテーブルには、湯気の立つ大盛りちゃんぽんとチャーハン、そして餃子が置かれている。それをとてもおいしそうに勢いよく食べているのだ。その食欲を見ていると、空腹がさらに極まる。腹を押さえると、俺はちゃんぽんのカウンターに行き、同じものを注文する。すると、不思議なことに、スウェットを着たフリーターのような女性や、俺と同じようにスーツを着ている男性までもが列を作り出したではないか。
 注文をして空きテーブルにつき、受け取り呼び出しのベルが鳴るのを待つ。その間も老女はおいしそうにちゃんぽんをすすっている。その様子を見ていると、早く食べたいという欲求がわいてくる。ーーベルが鳴った。
「2番でお待ちのお客様ー!」
 カウンターでちゃんぽんとチャーハン、餃子を受け取ると、俺もテーブルについてまずは麺からかっこむ。うう……きくらげの歯触り、コシのある麺......美味すぎる。あの老女のおいしそうに食べる姿を目の当たりにしていたからなおのことだ。
 後ろに並んでいた女性やスーツの男性にもちゃんぽんが届き、同じようにガツガツと食べ始める。
 ーーなんだかこれ、面白いな。一人暮らしで仕事に忙殺されている人間だと、こうやってパーソナルスペースは維持されつつも、他人と一緒に同じものを食べるということが少ない。職場で食べているのはゼリーやチョコバー、カロリースティックばかりなので、食事という感じじゃない。でも、フードコートでは名も知らない人々が同じものを一緒に食べている。
 孤食だなんだって問題になってはいるけど、フードコートでの食事はちょっと気が紛れていいかもしれない。食べながらそんなことをふと考えているうちに、老女は食事を終えたのか姿を消していた。
 今まで俺は、なんとなく寂しい思いをしていたのかもしれないな。ーーありがとう、一緒に食べてくれている名も知らない人たち。たまには知らない人同士フードコートで食べるのも、孤食になりがちな現代人には悪くない選択肢なのではないだろうか。
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