第6話 黒き水

文字数 8,121文字

ユリン「…」

人里を歩く。
人々の顔を見るのも飽きた。
ただじっとしているだけなのはつまらない。
奴らから受け取ったこの「黒水」の効果がどれほどなものかが知りたい。

フィル「さて…今日はどうしよっかなーっと…」

ユリン「…見つけた。」

早速「銃口」をフィルに向ける。
狙いを合わせたらあとは引き金を引くだけ。

フィル「っぐ!?

ユリン「…次だ」

もう一度構える。

フィル「くそ…!」

撃つ。

フィル「いっ…」

弾を弾こうとしても無駄。
亡霊が放つ弾丸は確実に獲物に食らいつく。

ユリン「…次は頭だ」

フィル「っ……」

マイン「はあッ!」

ユリン「!」

マイン「僕に任せて逃げるんだ」

フィル「できる訳…」

マイン「僕が死ぬ前に行くんだっ!!

フィル「なんでそんなに必死なんだよ…?」

マイン「いいから行け!話してる時間は無いんだ!」

シュヴァルツ「騒がしいな。何かあったのか」

アルム「……」

オーラス「あいつらか?ならばさっさと殺してしまおうじゃないか」

マイン「ちっ…」

フィル「…まさかお前…あいつら相手に…?」

マイン「…君がもう一度戻ってくるまでは耐えてみせる」

フィル「無茶だ!一緒に逃げよう!」

マイン「無理だ」

フィル「えっ」

マイン「…さあ行くんだ。手遅れになる前に」

ユリン「いい加減に死ぬがいい」

構えて…撃つ。
だが弾はフィルではなくマインの腕に当たった。
一瞬だけ激しく光る閃光。
視界が開いた時にはもうフィルの姿はなかった。

マイン「さあ、始めようか。僕はしぶといよ」

戦いの火蓋が落とされる。
その様子を遠くから見ていた人が一人。

?「知らせなきゃ…!」

それは気弱な青年。
覚えてもいない時に両親が居なくなり、
ほとんど1人で生きてきた。
生きる術はとある人に教えてもらった。
彼は最初、何も喋らなかった。
でも、少しずつお互いに心を開いて行った。
今も彼とはたまに会っている。
マインは彼の友人だったはず。
助けなければ。

?「り…力丸さん…!」

力丸「どうした、ラーガ」

ラーガ「向こうの方で…戦いが…」

力丸「…なんだと」

ラーガ「案内します!」

力丸「頼む」

全力で走ったせいで横腹が痛い。
だがそんな些細なこと気にしている時間はない。
たとえここで息が切れたとしても走り続けるのだ。
急げ、急げ。
足が棒になってもいい。
今やらねば恐らく一生後悔する。

ラーガ「はぁはぁ…あ、あそこ…です…」

力丸「よくやった、ちょっと休んでろ」


シュヴァルツ「フンッ」

マイン「っく…」

シュヴァルツ「ただの人間が我らに勝てるとでも?」

ユリン「無謀だったな」

オーラス「死ぬがいい。」

力丸「うぉあぁぁぁぁあ!!!!」

とりあえず刀を振り上げているオーラスを全力でぶん殴る。

オーラス「──ッ!!

そのまま剣を引き抜いて斬る。

マイン「黒雷ッ!!

オーラス「なn─」

力丸「よくやった」

マイン「舐めるな。僕もゼロ部隊だ」

力丸「覚えてる」

ユリン「……」

微かに風を切る音。
それが亡霊銃の銃声だ。

マイン「っぐ!?

力丸「お前か!」

ユリン「ふん…」

向かってくる刃を見切る。
最初から貴様は眼中に無い。
手負いなら確実に仕留める。
─万全の状態出なかったことを恨むといい。

マイン「がはっぁ………ぅ…」

まだだ…
まだ倒れる時じゃない…

力丸「マイン……てめぇ!」

オーラス「させるものか!」

力丸「どけえっ!」

シュヴァルツ「ぬぅんッ!」

力丸「ちいっ…!!

ユリン「どうした…?さっさと倒れないと風穴が増えていくぞ?」

マイン「っ…く、ふ、ふふ…」

ユリン「?」

マイン「お前達の負け、だ…」

イゼ「マインッ!!

ユリン「─おのれ!」

マイン「グッ…」

ユリン「動くな!!

イゼ「…なんで?」

後ろに。

ユリン「!?」

イゼ「私のマインに手を出さないで」

殺意。
抑えきれぬほどの。

ユリン「…!」

マイン「い…ぜ……」

イゼ「…ごめん…」

マイン「…だい……じょうぶ…」

イゼ「休んでて…」

…眠るように気絶してしまった。

力丸「マインは任せろ」

イゼ「…ありがとう、力丸さん」

刀を引き抜く。
そして同時に幻覚世界へと引き込む。
私の世界。
暗い、夜の森。
甘い夢になるか悪夢になるかは気分次第。
あなたは問答無用で悪夢。
地獄が生ぬるく感じるほどの苦痛を与えてあげる。

ユリン「…おのれ半竜!」

銃を向けて撃つ。
引き金を引きまくる。

ユリン「…なぜだぁっ!?」

当たっているだろう?!
そうだろう!?
なのになぜ怯まない!?
なぜ歩みを止めない!?
貴様ァッ!

立ち上がって撃ち続ける。
あいつが、悪魔が1歩、また1歩と進む。
そして私は撃ち続けながら少しずつ後ろへ歩いていく。
瞳の奥に刻まれた殺意が恐怖となって体を釘刺していく。
アレの足音が釘をさらに深く押し込んでいく…

─ドンッ。

背中に何かあたった。
微かに温もりを感じる。
これは…木ではない。
冷や汗が伝う。
それと同時に悪寒がする。
頭が理解したくないと思考を閉じる。
いや、理解しているのだ。
ただ、それを受け入れたくない。
恐る恐る振り返る。
身体が振り向くなと静止をかける。
無理だ。
そんな理性など残ってもいない。
振り返った先に居たのは─
…イゼだった。

ユリン「………………!!!!

イゼ「…」

悪魔が2人。
前と、後ろに。
逃げろ、逃げるんだ。
これは夢、
そう、
ただの夢。
夢、夢、夢、夢、夢、ユメ、ユメ、ユめ、ゆめ……ゆめ……?
これは…どっちだ??

イゼ「私からは逃げられない。」

暗闇からの声。
いや違う。
頭に直接?
それも違う。
耳元で囁いている?
違う?
悪魔が増えていく。
今度は3人。
逃げる度に増えていく。
やめろ近付くな。

ユリン「─私に近付くなァァァ!!!!!!

一心不乱に亡霊銃を撃つ。
発狂しそうだ。

イゼ「…夢想。」

刀を抜いた。
宙に浮く刀?
それも1本どころではない。
理解が追いつかない。
思考回路はとっくにめちゃくちゃだ。

数え切れない程の刀。
それが全て私の方へ向いている。
切り裂かんと。
木っ端微塵にしてやろうという気持ちが無機物から伝わってくるなど初めてだ。

イゼ「…」

私が手を下す。
然るべき裁きを。
純粋に死ね。

ユリン「ぬぉぉぉぉおおおおおおおおおおおあぁああああああああああああああぁぁ!!!!!!!!!!!!!!

イゼ「うるさいな。黙って死ぬことすら出来ないの?」

…さらに幻刀を突き刺す。
身体。
腕。
脚。
喉。
頭。
何も聞きたくない。


オーラス「……」

ファイナル「…俺のコピーか?笑わせる」

オーラス「…黙れ…」

ファイナル「…来い。」

オーラス「黙れえっ!」

ファイナル「そう怒るなよ。」

オーラス「ええい黙れ!黙れぇ!」

単純な感情に支配されている時ほど攻撃は見切りやすい。
相手が激怒している時は特に。
それを軽く見切ってさらに煽ってやるのさ。

ファイナル「落ち着けよ。じゃないと殺せねぇぞ?」

オーラス「…うおああ!!」

ファイナル「…ッ!」

振り下ろしを避けて回し蹴り。

オーラス「グ…ッ!」

ファイナル「相手が悪かったな」

真横に薙ぎ払う。

オーラス「っがああっ…!」

ファイナル「数で圧倒しなきゃ強気にもなれないのか。」

シュヴァルツ「…我々を甘く見すぎている節があるな。」

イゼ「………………で?」

ファイナル「はっきり言って強いとは思わない」

エンド「……あと一人足りない。隙を伺ってるだろ、そこの裏で」

「…!」

エンド「出て来い。」

全身を鎧に包んだ大男。
なぜこの巨体で隠れようとした?

ユリン「……っ…」

何故だ?
どうしてこんなにも手が出せぬのだ…?

突然頭の中に文字が浮かぶ。

『"黒き水 全てを包み 無に帰さん"』

ユリン「ッ!?

シュヴァルツ「ぬぐ…ぉぉぁっ…!!

アルム「おおああ!?あぁぁぁ!!」

オーラス「ぐ…」

唸り声。
こいつらを斬った時に違和感があった。
それは血がやけに黒いことだ。
…なるほど。そういう事か。

エンド「…兄さん?」

ファイナル「こいつらから目を離すなよ。いつ起き上がって来るか分からん」

エンド「…そりゃもちろん」

ファイナル「…」

アルム「…オオオォォ!!」

ファイナル「そら来た…!」

金属音。

ファイナル「……」

なんだよこの馬鹿力…
…ん?
こいつの鎧に空いてる無数の穴…
…いやまさか!?

アルム「…!」

ファイナル「がはあっ!?…」

エンド「兄さんっ!?

鋭い痛み。
針が体を貫いている。
…くそ。
身長差のせいで若干浮いてるのがわかる。
見事に串刺しじゃないか。

アルム「…オレは「全身凶器」、アルム。」

全身…なるほど。
とにかく今はこの針をどうにかしないとな…

アルム「逃がさんぞ」

ファイナル「っ…あがぁ!?」

完全に脚が浮かんでいる。
針が体の奥深くまで突き刺さる。
言うなれば逆鉄の処女…ってそんなこと言ってる暇はねぇ…っ

ファイナル「…こん…の…っ!」

腕を針から引き抜く。
力を入れるほど穴から血が流れていく。

アルム「…」

ファイナル「…うぐぅ?!

いきなり全身引き抜かれてと思ったら…
蹴り飛ばされて壁に叩きつけられたんだが…?

ファイナル「…」

エンド「兄さん!」

ファイナル「目を離すなっ!…ゲッフゴフ!」

うおぉ…体の損傷が…
視界が霧がかって…
頭が回んねぇ…っ…

ファイナル「……お前たちのことが気になってきた…!」

倒れるのが先か。
傷が塞がるのが先か。
やってやるよ。
この身体がむしろちょうどいいハンデだろ。

アルム「…うおお!」

棘だらけの腕を振り下ろしてくるか。

ファイナル「…よっ…」

バックステップで避け、腕を踏みつけて針を地面に埋める。

アルム「…無駄だ」

すぐに針をしまい込んだか。

ファイナル「…黒水…」

アルム「…フン!」

鎧に身を包んでる割には肉弾戦を好むんだな。
黒水のせいか知らねぇけどおおよそその鎧の重さからできる攻撃の速さじゃないぞ?

アルム「喰らえ!」

ファイナル「…っと」

拳を受け止める。

アルム「…」

針展開。

ファイナル「い゛っ゛…」

ここで怯んだら押し負ける。
飛び蹴り。

アルム「…!」

その衝撃で針も外れた…
…ちくしょう、使い物にならねぇや。

ファイナル「…」

アルム「死ねい!」

ファイナル「甘い」

腕を跳ね除ける。
そのまま押し倒し、ナイフを兜の隙間にねじ込む。
全身をまた針が貫いたがそんな痛みはどうでもいい。
確実に殺す。

アルム「ァ…ッガ─」

ファイナル「…」

他の奴ら…はまだ苦しんでる。
…次が起きるまでどれだけ回復できるか。

イゼ「兄様…」

ファイナル「…気にするな……」

正直血の塊がずっと喉でつっかえている。
吐く。
赤い血。
俺の体から流れていく液体。
酸味。
俗に言う血の味。
飲み込みはせずに吐き出していく。
蹲っている場所に少しずつ血溜まりが出来ていく。
血の海。
赤い湖の水面にエンドとイゼの横顔が浮かんでいる。
…少し休む。
少しだけ目を閉じるだけだ──

────────

ユリン「!」

イゼ「…」

幻刀のストックはいくらでもある。

ユリン「…!」

イゼ「…ん?」

周りを見る。

エンド「…やられたね。だからなんだって話だけど」

イゼ「わかってるじゃん。エンド兄様」

エンド「…兄さんが倒れたんだよ?俺らの出番じゃん」

イゼ「…そうだね。私たちでやるしかないもんね」

ユリン「…死ね…!」

弾丸が放たれる。
それをエンドは結界で、
イゼは幻刀でそれぞれ防ぐ。

ユリン「…」

ふわりと宙に浮くユリンの体。
そして常に銃口を向ける4本の亡霊銃。

ユリン「…私は…「亡霊銃」……ユリン…」

エンド「なんの捻りもなく、面白くもない。」

ユリン「………」

露骨に狙ってきた。

エンド「来いよ。」

もはやショットガンと変わらない。

エンド「効かないけどね」

ユリン「…!?

エンド「…終わり。」

ユリンの背中から刀を貫いて。

エンド「ゆっくり休みな。」

ゆっくりと引き抜く。
どさり、とユリンの体が地面に落ちる。

イゼ「…」

大したことない。
本当に数だけに頼るアホだった。
もう少し早ければ。
マインが救われたのかもしれないのに。
それだけが悔やみだった。

エンド「…兄さん、大丈夫?」

ファイナル「…ああ。まだ口の中で血の味がするが…」

エンド「もう少し休んでてよ。俺らが片付ける」

ファイナル「…すまない」

治癒はしている。
ただ…圧倒的に遅い。
傷がある場所が多すぎるのか、それとも針になにか仕込まれていたのかは分からない。
…歩こうとした時に激痛が走る辺り仕込まれていたのだろうか?
痛覚がそのまま残っているというのは不便だ…

シュヴァルツ「!」

イゼ「…うぅ!?

いきなり斬られる。

エンド「っ!」

シュヴァルツ「………」

イゼ「いった……もう…!」

幻刀をぶん投げる。

シュヴァルツ「…?」

弾かれる。
当然だろう。

イゼ「…えいっ!」

体重を乗せて振り下ろす。
相手はビクともしない。

弾かれて空中に投げ出される。
…いや、まだ私の攻撃は終わってない。
幻刀と夢想の動きをリンクさせる。
そしてそのまま薙ぎ払う。

シュヴァルツ「…っ!」

イゼ「私を怒らせるとどうなるか…知っておいた方がいいよ」

串刺しに。

シュヴァルツ「甘いわ。」

イゼ「うわっ…」

エンド「忘れちゃ困るなぁ!」

シュヴァルツ「…フン」

うっわこいつ素手で刃握ってるよ…
てかこのままだと折られるくね?

エンド「やっべ…」

慌てて引き抜く。
そのタイミングで剣を突き出してくる。

エンド「…っと…!」

スレスレで避ける。

エンド「…あぶね…」

…流石にこれだと不味いか。

エンド「…ふう。」

息を落ち着かせる。
目を閉じて、大きく、深く。

─覚醒─

エンド「…さぁ、行くぞ。」

地面を大きく抉って走る。
気をつけろ、今の俺は兄さんより「ちょっと」凶暴だぜ。

エンド「うるぁ!」

シュヴァルツ「ぬぐっ…?!

エンド「ぶっ飛べッ!」

シュヴァルツ「ぬぐぉアッ!?」

エンド「そら!」

一撃に殺意を込めて。

エンド「殺してやるッ!」

シュヴァルツ「フンッ!」

エンド「っ!」

横から叩かれるように斬られる。

エンド「それがなんだァ!」

シュヴァルツ「!?

エンド「─イゼェッ!」

体を投げる。

イゼ「…」

両手に握った刀で斜めに、真横に、下から上に。
乱舞のような形で斬りまくる。

イゼ「終わりっ!」

地面に叩きつける。

シュヴァルツ「───」

沈黙。

イゼ「はぁ…はぁ…」

静かな憤り。
だがそれは確かな怒り。
徹底的にやるまで満足出来そうにない。
今一度、刀を強く握る。

イゼ「…」

オーラス「…」

エンド「…まだ来る」

…かかってこいよ。
俺は兄さんみたいな反動はない。
最後まで戦ってやる。

イゼ「ふーっ…」

深呼吸。
無論それだけで収まるほど浅い怒りではない。

オーラス「俺は「模造:半竜人」…オーラス…」

エンド「コピーなんていくらでも見てきた」

イゼ「まあ、結局どれも失敗作だったよね」

エンド「レイルの件は俺らでも許さない。」

オーラス「俺は影じゃない。影鴉だ。人違いも甚だしいぞ貴様ら」

エンド「黙ってくれる?俺らからしたらどっちも敵なんだよ」

イゼ「…」

話すのも飽きた。
なんかもうどうでも良くなってきた。

イゼ「…覚醒。」

無数の幻刀が周囲に突き刺さる。
手を上に掲げれば数百の刀がそれに追従する。

イゼ「………綺麗な景色でしょ?」

オーラス「どうだかな。覚醒…!」

本来半竜人以外には使えぬはずの覚醒。
それがあいつの口から漏れた。
黒水の効果…
もしやそれは能力を向上させる効果?
奴らが名乗る2つ名の通りにより近くさせる効果?
詳しいところまでは分からないが、能力に関係している事は確かなんだろう。

オーラス「…そう…これが半竜人の能力ッ!!

目にも止まらぬ速さ。

エンド「…なるほど、兄さんみたいな覚醒か。」

それはもう俺らにとっては見慣れたものだ。

オーラス「喰らえ…!」

エンド「ほいっと…そら!」

突き出された刀を絡めて体を捻る。

オーラス「うお…っ」

イゼ「…」

地面に幻刀を突き刺していく。

オーラス「!」

地面を転がって避ける。
立ち上がって刀を構える。
あいつが使う神楽の模造品…
言うなれば…「偽神刀 神楽」だろうか。

真正面からイゼが、
後ろからはエンドがそれぞれ斬りかかろうとしている。

オーラス「…うおおぉ!」

まずはイゼ!
幻刀に気を付けつつ吹き飛ばす!

オーラス「…ふんっ!」

イゼ「……っ…」

オーラス「次はお前だ!」

エンド「やってみろぉ!」

オーラス「っ!?」

なんだ今のは…!?
刀を持つ手の感覚が消えているのだが…?!

エンド「人間が俺に勝てると思うなァ!」

オーラス「ッ!!

力量が違う…!
このままでは負け─

オーラス「うぐ…!」

な…なんだ…?
身体が……痛む………?

オーラス「むぐ…おあぁっ…」

吐血?!
なんなんだ!?
俺の体に何が起こっている!?

エンド「身体に限界が来たんだな」

オーラス「なんだと…?」

エンド「人の自然治癒を遥かに凌駕する回復速度。異常なほどの身体能力。自分でやってておかしいと思わないのか?」

オーラス「……」

エンド「黒水、だっけ。不運だったね」

オーラス「くそ………」

エンド「…良くも悪くも、最期だね。」

今なら文字通りただの人間だ。

エンド「さようなら、オーラス。」

哀れな被害者よ。

首を掻っ切る。

刃に滴る血。
拭う。

エンド「さって、こいつらもこれで…」

イゼ「…まだだよ、エンド兄様。」

エンド「え?」

イゼ「ほら、あれ。」

イゼの指の先には、倒れたはずのシュヴァルツが立っていた。

シュヴァルツ「く、くふふ…グロリアス…我が剣よ…もう少し、私に力を貸してくれ…」

イゼ「…私にやらせて欲しいな」

エンド「…マインの恨み?」

イゼ「うん」

エンド「そう。なら止めないよ」

イゼ「……ありがとう」

エンド「無理しないで」

イゼ「うん。」

シュヴァルツ「…ふはは……」

心は澄んでいる。
頭はぐちゃぐちゃだ。

色んなものが巡り巡って溶けていく。
思いとか、感情とか。
あー……今、私どうなってるんだろ。

イゼ「…殺す。」

シュヴァルツ「来い…」

夢心地。
幸せな夢。
願い。

シュヴァルツ「消えろ」

イゼ「煩い」

それは結局叶うことは無かった。
ねぇ?
私はなんの為にここに居るの?

イゼ「…ッ!」

シュヴァルツ「ぬぐ…」

私の夢。
儚い夢を見せて。

イゼ「…!」

シュヴァルツ「無駄だ…!」

イゼ「うるさい…うるさいっ!」

シュヴァルツ「ぐっ…!?

不死。
永遠の命。
もういい。
くだらない。
私はただみんなみたいに生きて、
みんなのように死ねればいい。

イゼ「…不死の殺し方は─」

シュヴァルツ「うがぁ!?」

永遠の命の具現。
想いがそうさせる。
不死の殺し方は…
心を砕く…それだけでいい。
心の結晶を。

イゼ「これで…終わりっ!!

シュヴァルツ「ぬぐあぁ…っ…」

終わった。
本当にこれで全てが終わった。

イゼ「…」

力丸「…終わったんだな」

イゼ「マインは!?」

マイン「ここにいるよ。」

イゼ「マイン…!」

飛び込む。
私の体をマインが受け止めてくれる。



力丸「ファイナル、肩貸してやる」

ファイナル「力丸…不甲斐ない」

力丸「なーに気にすんな。ラーガの件も含めた俺の恩返しだ」

ファイナル「…ラーガは…元気か?」

力丸「ああ。お前が定期的に顔出してくれるからな。あいつお前の事親かなんかだと思ってんぞ?」

ファイナル「…崩れた家屋の瓦礫の下で見つけたんだ…怪我の処置たったり、食べ物を食べさせたり、雨風が凌げる建物を作ってやったり…俺が出来ることは全部やった」

力丸「ラーガはその全てに感謝してる。」

ファイナル「…」

力丸「今頃、エンドと仲良くなってんじゃないのか?」

ファイナル「?」

エンド「ははは!いいねそれ、楽しそうだ」

ラーガ「ですよね!その時はぜひエンドさんも一緒に!」

エンド「ああ!考えておくよ。ありがとう、ラーガ」

ラーガ「はい!あ、おかえりなさい!」

ファイナル「お前が力丸に知らせたんだってな。」

ラーガ「はい…」

ファイナル「よくやった。」

頭に手を置いて撫でる。
こうするとラーガは心底嬉しそうに笑うんだ。

ファイナル「また会いにいく。」

ラーガ「…待ってます!」

ファイナル「ああ。…力丸、行こう」

力丸「おうよ。」

帰路につく。
力丸とは他愛もない話で盛り上がる。
こういうくだらない時間を俺は求めていたのかもしれない。

───────────

イゼ「…」

マイン「……」

あれからずっと抱き合っている。

イゼ「…嬉しい」

マイン「…?」

イゼ「なんでもない。」

マイン「…イゼ」

イゼ「?」

マイン「…ん。」

イゼ「!?

マイン「…さて、僕らもそろそろ帰ろうか」

イゼ「え、ちょ…い、今…」

マイン「ん?」

イゼ「なんで…」

マイン「君が好きだから、だよ。」

イゼ「…!」

マイン「続きはまたいつか、ね。」
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