第5話 その鴉、大量発生につき

文字数 10,792文字

ホーク「おのれ…次こそは沈めてくれる…!」

トレーネ「逃げ帰ってきたの?情けない…」

ホーク「お前はなんの収穫もなかったそうじゃないか。無様だな」

トレーネ「私はあいつに従う気なんてさらさらないわ。わざと居ないとわかってる場所を探してるだけなのよ。」

ホーク「フン。処罰の対象だぞ」

トレーネ「いっそ殺してくれればいいのにね。」

ホーク「…リバが気に入らんのは分かるぞ。だが従わなければ命がない」

トレーネ「従うしかないのよ。あの人に」

ホーク「…気に入らん。」

冥「あなた達、邪魔よ。退きなさい」

ホーク「…ガキが」

冥「究極人間に潰されたいのかしら?」

ホーク「潰されるのは貴様だ、如月(きさらぎ)。」

冥「なによ。私が失敗するとでも言いたいの?」

ホーク「よくわかっているじゃないか」

冥「…」

トレーネ「……私はもう一度外に行ってくるわ。次は戻らないかも。」

ホーク「くたばるならさっさと死ねばいい。俺も出るとする」

足音が遠ざかっていく。

冥「─なんなのよ、みんなして。」

まぁいいわ。
私には武器がある。
知能という武器が。
そして、究極人間という武器がね。
研究室兼自室に入って機械を操作する。
予定よりかなり長引いたが、それも今日で終わり。

冥「目覚めなさい…私の完成品…!」

亡霊の銃よ。
全身に仕組まれた凶器よ。
模造された半竜人よ。
不死となった騎士よ。

ユリン「……」

アルム「……」

オーラス「……」

シュヴァルツ「……」

冥「おはよう。気分はどうかしら?」

ユリン「…上々。」

アルム「不機嫌だ。」

オーラス「どうでもいいだろう、そんなこと」

シュヴァルツ「変わらぬ。」

冥「これからあなた達にはとある奴らを─」
アルム「わかっている。」

冥「…それじゃ、行ってきなさい。」

4人が揃って歩いていく。

デュー「……」モゾモゾ

冥「…あら、忘れていたわ…」

黒いスライムのような物体を拾い上げる。

冥「ごめんなさいね、「デュー」。あなただけ、箱になる人間がどうしても見つからなくて。」

デュー「…」

冥「…そうよね。話せるわけないか。」

デュー「決めつけは酷いな。」

冥「…?」

頭の中に流れてくるような声。

冥「…まさかデュー?」

デュー「そうだよ。僕だ」

冥「いつの間にテレパシーなんて」

デュー「僕は黒水(くろみず)そのものだ。不可能なんてない」

冥「…可愛いわね。流石私のペット」

デュー「…」

冥「肯定も否定もしないのね…まぁいいわ…今日はやけに人の出があるわね。そのうち何人が帰ってくるのかしら。」

ここは人里から少し離れた草原。
最近の魂魄兄妹の遊び場だ。
今日も妖奈がはしゃいで走り回り、妖羅が心配そうにそれを眺めている。

妖羅「妖奈…あんまりはしゃいでると転ぶぞ…」

妖奈「大丈夫大丈夫!」

妖羅「小さい頃そうやって言って派手に転んで足ひねっただろ!」

妖奈「あれはただ足がもつれただけだもーん! 痛かったけどね!」

妖羅「…自覚あるならもうちょっと慎重に行動しろよな…」

そんなふたりの目の前に突然、影が降り立った。

ロバート「標的とは違うが…貴様達はあの半竜の子供達だろう。それだけで十分な証拠になる。」

妖羅「なんだ?いきなりぶつぶつ言い出して…」

ロバート「殺す。」

妖羅「な!?

ナイフを振りかざしてくる。

妖羅「うあっぶ…!」

ロバート「死ねえっ!」

妖奈「っと!」

ロバート「貴様…!」

妖奈「邪魔するなって?そうはいかないよ」

ロバート「なら貴様ら2人とも地獄に送ってくれる!」

妖羅「させるか…!」

ロバート「…面白い…」

──────────

シーカー「運がいいな…」

ファイナル「…」

シーカー「まさか…お前が1人の時に見つけられるとは」

ファイナル「戯言はいいからさっさと掛かってこい、『暗殺者(シーカー)』」

シーカー「よく知っているな…」

ファイナル「俺の情報網を舐めるな。」

シーカー「…行くぞ!」

素早く短剣を振りかざす。
しかし手首を掴まれて腹部に一撃をもらう。

シーカー「ぬぐぅ…っ!」

ファイナル「…」

手をクイクイさせて挑発してくる…

シーカー「フフ…」

ファイナル「…」

シーカー「はっ!」

ファイナル「遅い」

刀で受け止められる。
…圧倒的に、
何もかもで負けている。

ファイナル「相手が悪かったと思うんだな。」

シーカー「…!」

ファイナル「…ん? おっと…」

シーカー「…なんだ…?」

ホーク「………」

ファイナル「誰かと思えば。ガーディアの艦長。」

ホーク「…『監視者』として…今度こそ貴様をねじ伏せる…ッ!」

ファイナル「来な。次はあの世に沈めてやる」

ホーク「─貫く!」

撃つ。
そして素早く剣を抜く。

ファイナル「…」

弾丸を弾き、下から切り上げてくる剣を力で押さえつける。

シーカー「─ハッ!」

ファイナル「…チッ…」

仕方なく2人から離れる。
─良いだろう。
そこまで死にたいならお前らまとめて殺してやるよ。

ファイナル「─覚醒─」

周りの音が静まる。
極限を超えた集中。
それは時に力をも伏せる。

ファイナル「…。」

鋭く研いだ殺気を2人に向ける。
刺され。
そして震え上がれ。
貴様が今対峙しているのは、
─『歴史が消した半竜王』だ─

ファイナル「お前達の命は俺の掌の上にあると思え。」

シーカー「…ッ」

ホーク「……」

地面を蹴る。
最低限の動きで最大の速度を。
普通の人間からしたら瞬間移動にも見えるだろう。

ホーク「なっ─」

刀を振り下ろす。

シーカー「ぐ…っ…!」

ファイナル「…」

腹部を蹴りあげる。

シーカー「ごふっ…」

ファイナル「…」

そのまま頭を掴んで地面に叩き付ける。

シーカー「─ァッ!!

ホーク「クソッ!」

ファイナル「…よっと。」

しゃがんだ状態からホークの顔を狙って蹴る。

ホーク「グッ!?」

すぐさま立ち上がってトドメを刺しに行く。

ホーク「…クソ…ガーディアさえ…あいつさえ修復出来れば…」

ファイナル「ガーディア?それなら今頃…」

ホーク「な…な!?

空に浮かぶ戦艦。
─ガーディアだ。

ホーク「何故だ!?

ファイナル「…よくやった、ミクラス」

ミクラス「はい!ガーディアのハッキングは手がかかりましたね〜」

ホーク「ぐ…貴様ァ…ッ」

ファイナル「ミクラス、主砲用意」

ミクラス「了解。」

空に手をかざすとミクラスの船体半分が具現化する。

ホーク「………馬鹿な…」

ミクラス「照準修正中……完了。」

ファイナル「撃て」

発射時の轟音。
弾丸はガーディアを貫く。

ファイナル「お疲れ様」

ミクラス「はい!」

─落ちていく。
青い空に。
深き青に沈んでいく。

ホーク「ガーディア……………」

ファイナル「次はお前だ」

ホーク「……おのれ……おのれえっ!!

殴り掛かる。

ファイナル「諦めろ」

手を振り払われ、肩に刀を突き刺される。

ホーク「あぐぁあああっ?!

ファイナル「…終わりだ、ホーク」

肩から引き抜いて胸に突き立てる。

ホーク「っがぁッ──、あ、ぅぁ──」

ファイナル「…あと1人。いや、2人だな。」

空から降りてくる1人。

トレーネ「…!」

受け止める。
一気に3人に見つかるなんて運が悪い。
─全員斬り伏せてくれる。

トレーネ「…なんで反応できるのよ」

ファイナル「甘く見るな」

シーカー「…………」

ファイナル「さあ、もっと俺を楽しませてくれよ。退屈しのぎにはなるからな」

シーカー「貴様…どれだけ我らを侮辱する気だ…」

ファイナル「侮辱ぅ?無礼を働いているのはそっちだろう?」

シーカー「…」

ファイナル「消されたとはいえ、我は半竜王。王に刃を向けるとは何たる無礼か。…なんてな。俺はただ、お前らが来るから戦ってるだけだ。」

シーカー「…うるさい!」

ファイナル「オイオイ…ふっかけてきたのはそっちだろ。」

トレーネ「…そこ」

ファイナル「残念。」

シーカー「なぜ当たらないのだ!」

ファイナル「当たる訳が無いさ。」

魔法具を取り出して展開する。

ファイナル「スティンガー・レーザー」

6発のホーミングレーザー。
これくらいは防ぐなりしてくれないと困る。

トレーネ「…甘い!」

背後に現れる。
…さて、甘いのはどっちかな?

ファイナル「…惜しいな。」

魔法具をトレーネに向けて放つ。

トレーネ「そんな…!?

シーカー「…ちくしょうめ…!」

ファイナル「どうしたぁ?プライドがズタズタなのか?哀れだなw」

シーカー「っぐ………」

ファイナル「ハハハ!たった2人で勝てると思うなよ?」

普通の人間が俺を止めたいのなら…
10人規模で攻めてこい。

ファイナル「反撃は終わりか?終わらせるぞ?」

シーカー「……」

トレーネ「…シーカー!」

シーカー「……相手が悪かったのだ…」

「荊よ!」

ファイナル「…まだ来るか。」

「潰れろ!」

結界は間に合った。
…重い。

ファイナル「デーブンと…ドルンか」

また厄介な。

ファイナル「…いい加減離れろ!」

結界を外側に押し出してデーブンを引き剥がす。

デーブン「…っと…ククク…これでもその余裕顔できるか?」

ファイナル「…戯言を言うんじゃない。身の程を知れ、人間」

ドルン「行くぞ!」

荊を伸ばして突っ込むか。
ならば…その荊を掴んで引き寄せ…
タイミングを合わせて蹴り飛ばす。

ドルン「うごぉ…!?

そのまま駆け出してデーブンの元へ。

デーブン「この野郎!」

振り下ろされる拳を受け止め、弾きあげる。

デーブン「ぬおお…ッ!」

ファイナル「消えろ。」

魔法具の魔力を刀身に流し込む。
威力はアルマゲドンど同等。
…当たれば消し飛ぶだろうよ。

ファイナル「滅断(めつだん)。」

デーブン「んぐ?!───」

文字通り消し飛んでいく。
強い肉体も、圧倒的な力には耐えられない。
次は─
─お前だ。(トレーネ)

ファイナル「─ッ!」

トレーネ「…!」

武器が打ち付けあった音が歪む。
まだ刀身の魔力は尽きていない。

ドルン「く…くそがぁ!」

シーカー「………うぉあぁああああ!!!」

ファイナル「…ふっ!」

トレーネ「ふぐ…っ!」

ファイナル「はっ!」

振り向きざまに斬る。

シーカー「──っ……く…」

両膝をつく。

ドルン「…! シーカー!」

首が落ち、身体も消えて行く。

ドルン「貴様あああっ!!」

貫かんとする荊を切り落とす。

ドルン「殺してやる!!

ファイナル「サルベージ」

胸を貫く。

ドルン「がはっあァッ!!

荊が絡まる心臓。
結晶が貫いている。
もうすぐ止まるだろう。

ドルン「ふざけ……んな……」

腕を引き抜く。

ドルン「…クソが……───」

トレーネ「…」

ファイナル「お前だけだ」

トレーネ「…降参よ。」

そう言って魔導書を開き、詠唱を始める。

トレーネ「…離れなさい」

ファイナル「…。」

その場を離れていく。

トレーネ「…つまらない人生だったわね。」

詠唱を終え、魔導書を閉じる。
その瞬間、トレーネを中心に爆炎が広がる。

ファイナル「……」

終わった。
だが、まだ悪夢は終わらない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ロバート「フン!」

妖羅「ぐ…」

妖奈「やあっ!」

ロバート「甘い!」

妖奈「うああああっ?!」

足首を掴まれて投げられる。
着地に失敗して膝を擦りむく。
シンプルに痛い。
じーんとする。

ロバート「くたばれ!」

その声にはっと現実に戻る。
だが、足が動かない。
身体も動かない…
反射で顔を背けて目を閉じてしまう。

?「くうっ………!」

一瞬だけ聞こえる悲鳴。

ロバート「…馬鹿め」

そっと目を開ける。
目に写ったものは、
人の足。
血溜まり。
ぽたぽたと落ちてくる血液。
すらっとした背中。
赤く、長い髪。
…レイルだ。

レイル「間に合った…ね…」

妖奈「レイルさん…?!

レイル「ごめんね…本当はもっと早く来れるはずだったんだけど…」

それは数時間前に遡る。

妖奈「レイルさん、一緒に遊ぼうよ〜!」

レイル「ああ…ごめんね…今からちょっと用事があって…遊べないの。」

妖奈「そんなぁ…」

レイル「でも安心して。終わったら絶対行くからね。」

妖奈「本当に?わーい!」

…とまあ、このようなやり取りがあったのだ。

レイル「……っ」

ナイフを引き抜かれ、血が少し吹き出す。

妖奈「無理しないで!」

レイル「これくらいなら…大丈夫。」

妖奈「でも…!」

レイル「だって、半竜人だもん。」

おどけた口調で呟いた。
…半竜人。
否定はできない。
だが、レイルはキルアのような半竜ではない。
意図的に作られた半竜だ。
それは、右腕に刻まれた幾多の魔法陣と模様が語っている。

レイル「…私も、戦うよ。」

妖奈「…ダメ!」

失血だけは駄目だ。
半竜の血だけは…どうしても人間の体では作れない。

レイル「……私、足手まといだね」

妖奈「気にしないで…私が悪いの」

ロバート「…!」

妖奈「…」

受け止める。
今度は失敗しない。

妖奈「…子供だからって…甘く見ないでよ!」

弾く。

ロバート「ッ!?

斬る─
避けられた!?

ロバート「小賢しい…!」

妖羅「こっちを見ろぉ!」

ロバート「なあっ─」

よし!
今だ!
踏み込んで深く斬り付ける。

ロバート「馬鹿なッ─」

片膝をつく。
こんな、こんな子供に…

妖羅「…」

刀を突き付ける。

ロバート「…殺せ…」

その言葉を聞いて、ゆっくりと身体に突き刺していく。



レイル「……」

傷が深いのか。
血が止まらない。
まだ、気絶はしない。
その前に、多分塞がるだろう。
キルアのようにはならないとは思う。
そう思い込む。
この身体はキルアのような

「竜に近付いた人間」

ではなく

「人間ベースの竜」

なのだ。
だから、体の中で竜の血は作られる。
竜の血の喪失による気絶はまずしない。

レイル「お疲れ様。2人とも」

妖羅「傷は大丈夫ですか?」

レイル「うん。ありがとう」

妖奈「早く戻ろうよ…!」

妖羅「…そうだな」

〜〜〜〜〜〜

浮遊戦艦「レフィタ」

ジェイ「力丸。ホークとガーディアが完全に沈黙だとよ」

力丸「あ?死んだってか?」

ジェイ「そうらしい」

力丸「んじゃあここに留まる理由もねぇな。どうする?」

ジェイ「俺も戻る。」

力丸「はいよ。んじゃ行くか」

レフィタ「き、緊急連絡!高速でこちらに近付いてくる生命体!」

力丸「飛行機か?」

ジェイ「生命体だから違うだろ」

直後、船が大きく揺れる。

レフィタ「接触!」

力丸「…敵だな、こりゃ…」

ジェイ「…なんの躊躇もなく突っ込みやがって」

?「失礼する!」

ドアを蹴り飛ばして入り込んでくる。
履き違えたアメリカンヒーローみたいな格好だ。

?「ここが浮遊戦艦レフィタだな?」

レフィタ「その通りですが…」

?「破壊させてもらうぞ!」

「「「!?!?」」」

?「私の名はヘルト!影鴉の皆からは『ダークヒーロー』とも呼ばれている!」

繋がったわ。
あのヘンテコな衣装も
なんでこの船を襲ったのかも全部繋がったよ。
というか全部話しやがった。

力丸「勝手に乗り込んで無礼を働くとはヒーロー失格だな。」

ヘルト「ハハハ!それほどでもない!」

あダメだわこいつ。

ジェイ「………お前いい加減にしろよ?」

キレ始めてるな…
俺も…このまま船を壊される訳にもいかねぇしな…

ヘルト「行くぞ!」

「「させるかぁ!」」

ジェイの蹴りと力丸の鉄拳が打ち込まれる。

ヘルト「ぅぐぉあっ?!」

ジェイ「影鴉ならぶっ殺してやる…!」

ハルバードを振りかぶる。

ヘルト「とうっ!」

当たるギリギリで避けられる。

ジェイ「…チッ」

ヘルト「オイオイ…客人にはもう少し優しくだな…」

ジェイ「黙れ。誰が客人だ」

力丸「落ち着け」

ジェイ「…」

引き下がる。

ヘルト「お前は話がわかる奴だな!」

力丸「うるせえよ。乗り込んだのはそっちだろ。そしてお前が敵なら俺らは然るべき行動をするだけだ」

ヘルト「ほう? 然るべき行動とは?」

力丸「お前を倒す。」

ヘルト「ハハハ!!面白い!やってみろ!」

力丸「…レフィタ、ちょっと暴れていいか?」

レフィタ「大丈夫です!」

力丸「よっし…やるか、ジェイ。」

ジェイ「…任せろ」

ヘルト「…行くぞっ!」

恐ろしい速さのストレートパンチ。

力丸「っとあぶねえ。」

ジェイ「吹っ飛べ」

艦橋を突き破って甲板へ。

ヘルト「2人がかりとは卑怯な…」

力丸「ヒーローなんだろ?」

ジェイ「それならこのくらい勝てるよなぁ?」

ヘルト「…あまり怒らせない方がいいぞ?」

ジェイ「まあいい。さっさと仕事終わらせるぞ」

ヘルト「ふぅん…!」

あからさまに何か大技を出すような構えをとる。

ヘルト「ヘビー・ナックル!!

力丸「っ……!!

ヘルト「なんだと!?

ジェイ「……流石、人間ゴリラって言われてるだけあるな。」

力丸「言われてねぇよ…てか早くやれや…」

ジェイ「はいはい……ラァ!」

蹴る。

ヘルト「ぬぐぅ!」

ジェイ「死ねぃ!」

ハルバードを振り下ろす。

ヘルト「ッ!」

避けられたか。
まぁいい。

ジェイ「しぶといな」

ヘルト「ぐ…覚えてろよ…」

あーあー。
尻尾巻いて逃げやがった。
仕留めたかったのに。

ジェイ「つまんねぇな。」

力丸「…」

逃がしたか。
…どうするべきだ。
少なくとも直近で竜の国に危機が迫るようなことは無さそうだ。
どっちらかといえば幻想郷の方が不味いだろ。
…よし。決めた。

力丸「ジェイ」

ジェイ「あ?」

力丸「俺も幻想郷に残ることにする」

ジェイ「は…はぁ!? お前ゼロ部隊はどうする気だよ!? そもそもソル様が許sむぐっ!?

口を塞ぐ。

力丸「その点については後々相談するさ。まずは竜の国に戻って話し合おう。…レフィタ!」

船が動く。
空間を歪ませ、竜の国に帰る。
レフィタは…

力丸「…これに限るな」

ジェイ「やっぱそうなるんだな。」

ミニチュアサイズの船。
それを持って部屋に入る。

レフィタ「お疲れ様でした!」

力丸「管理は頼むな」

レフィタ「おまかせくださいっ!」

〜〜〜〜〜〜

力丸「ソル様」

ソル「どうした?」

力丸「少しお話が」

ソル「ほう?」

力丸「俺の事についてです」

ソル「話してくれ」

力丸「俺は幻想郷に行くつもりです」

ソル「…それで、ゼロはどうする?」

力丸「向こうにはジェイとファイナルがいます。昔のようにあいつらと一緒に新しいゼロ部隊として過ごそうと思っています。こちらのゼロ部隊についてはもう解体で良いでしょう」

ソル「……」

力丸「ご安心を。竜の国が何かしらの危機に直面した時には俺達も全面的に協力します」

ソル「…わかった。頼りになる人がいなくなるのは少し寂しいが、それが力丸の答えなら受け入れよう。」

力丸「…ありがとうございます」

ソル「その代わり、きちんと顔は出してくれよ?私も君達に会いたくて仕方ないんだ」

力丸「もちろんです。また近いうちにお会いしましょう」

ソル「…もう行くのか?」

力丸「しばらく休憩してからですかね」

ソル「そうか。ゆっくりしていってくれ。お前達のおかげで竜の国もかなり落ち着いてきたんだ。」

力丸「…ええ。それでは失礼します」

ソル「ああ」

ドアを閉める。
ガチャン、と音がした。
…今の竜の国にはあの頃の面影はない。
半竜人は死に絶え、ただ、人々の記憶に刻まれているだけ。
なあ、ファイナル?
お前が見たかった竜の国はこれなのか?

力丸「……」

重い気持ちを持ちながら階段を降りる。

「力丸!」

力丸「…?」

学「帰ってきてたんだな!」

力丸「…(がく)か…ああ。でもすぐに行く」

学「それは残念だ…」

力丸「……」

学「元気がないように見えるが?」

力丸「…あいつが見たかった竜の国は…今の竜の国なのか…分からなくてな」

学「…ファイナル君のことか?」

力丸「ああ。」

学「心配しなくてもいい。彼は彼なりに満足しているからな」

力丸「…どういうことだ?」

学「「彼女」との約束はとうに果たされたのさ。」

力丸「…あいつの過去の話を知っているのか?」

学「まあね。 「人の為に生きる」 それが彼女との唯一の約束だ」

力丸「……」

学「少なくとも、彼が生きていれば、彼をよく知っている人々は喜ぶ。彼のきょうだいも、彼の家族も。本人はそんな自覚はないだろうけど、もう密かに約束は果たされているんだ。」

力丸「そうか…」

学「そして、彼自身も竜の国の平和を望んでいる。…どんな形であれ、ね。だから、今の竜の国を見ても、彼は満足するだろうね」

力丸「…お前…そこまで知ってるんだな」

学「彼とは結構仲がいいんだ」

力丸「あいつは自分の過去をそうそう口に出さないと思うんだが」

学「それはちょっと記憶を覗かせてもらってね?」

力丸「…次からはやめてやれ」

学「あはは…彼にもやめろって言われてるからもうしないさ」

力丸「…ジェイには会ったか?」

学「ああ。元気そうだったね」

力丸「またしばらく会えなくなるな」

学「帰ってきたらみんなで僕の家に来てくれよ。歓迎する」

力丸「ああ。覚えとくぜ」

学「それじゃ、僕はこの辺りで。君達の無事を祈ってるよ!」

力丸「…じゃあな。お前に刃の祝福を。」

敬礼で返す。
そしたら向こうも笑顔で敬礼してきた。

力丸「…別に返さなくていいのによ。」

それだけ言ってまた階段を降りる。
部屋のドアを開ける。
すっかり片付いている。

ジェイ「よう。あんまり遅いからやっといたぜ」

力丸「おお…助かる」

ジェイ「ああ、あとお前が使いそうなやつはまとめてそこのダンボールにつめたけどよ。覗いて使いそうにないものあったら教えてくれよ」

力丸「ん。分かった」

ダンボールを開けて中を覗く。
2人とも荷物はダンボールひとつで足りる。
ジェイに至っては恐らく半分も入ってないだろう。

力丸「こいつは要らんな…流石に使わなかった」

ジェイ「お前のデスクって食べ物のゴミばっかだったよな」

力丸「夜食。」

ジェイ「どうりで軽食のゴミが多い訳だ」

力丸「お前こそ前は飲み物のゴミばっかだったろ」

ジェイ「エナドリとブラックコーヒーの事か?寝落ち対策にな」

力丸「笑いながら言うもんじゃねぇだろ…」

ジェイ「最近は溜めないようにしてるぜ。」

力丸「それはいい」

ジェイ「仕分け終わったか?」

力丸「ああ。終わった」

ジェイ「んじゃ…ほい。」

ゴミ袋を渡される。

力丸「そん中入れて縛ってくれ。ゴミ出しに行って来るから」

力丸「やけに家庭的になったな…お前」

ジェイ「まぁ…同居人が2人いるからな。」

力丸「は?」

ジェイ「同居人だって」

力丸「鈴瑚(りんご)だけじゃねぇの?」

ジェイ「清蘭(せいらん)って奴がいる。元々鈴湖と清蘭で過ごしてたらしいからな」

力丸「ほーう…っと。縛ったぜ。ゴミ袋はそれだけか?」

ジェイ「いや。まだある」

力丸「どこだ?」

ジェイ「部屋の奥に固めてある」

力丸「俺も手伝うぜ」

ジェイ「それはマジで助かる」

何個か置いてある内から一番重いと感じた物を2つ持ってジェイについて行く。
途中何度も「重くないか?」「大丈夫か?」って言われたがな。
少なくとも俺はお前より力持ちなんだよ。
余計な心配すんな。

ジェイ「ここだ」

力丸「…部屋から割と遠いじゃねぇか」

ジェイ「仕方ないだろ…」

力丸「…よし。次持ってくるか」

ジェイ「ああ」

そうしてしばらく作業をした。
そんなに時間はかからなかったな。

力丸「…幻想郷行ったら俺どこ行けば良いんだ?」

ジェイ「…馬鹿かお前」

力丸「…あ、そうだ。ちょっと前に仲良くなった親無し子が居たな。そいつ手伝ってやるか」

ジェイ「…誰だ?」

力丸「ブランクって名前だったんだけどな。その名前が嫌で嫌で。今はラーガって名乗ってるらしいぜ」

ジェイ「へぇ。お前が名付けたのか?」

力丸「いいや?確か…蘇我屠自古(そがのとじこ)、って奴だったかな?俺もよく知らん」

ジェイ「ほーん。正直こっちに来られても困るしな」

力丸「だろ?」

ジェイ「分かってんのな」

力丸「まーな」

ジェイ「…次に戻ってこれるのはいつかな」

力丸「そん時はファイナルも一緒に帰ってくるか」

ジェイ「…良いな、それ」

力丸「だろ?」

ジェイ「…」

力丸「……なあ、ジェイ」

ジェイ「んあ?」

力丸「…今まで、ありがとな。」

ジェイ「……………」

力丸「お前は最高の相棒だ」

ジェイ「…俺がいる前で過去の事は話さないでくれよ?」

力丸「そんな地雷は踏むもんか」

ジェイ「…頼むから。」

力丸「わーってるって」

ジェイ「…わかってるなら良いんだよ…」

〜〜〜〜〜〜〜

ファイナル「……もうこんな時間か」

エンド「お疲れ様。」

イゼ「おつかれ〜」

ファイナル「…ああ、お疲れ。」

エンド「どうだった?」

ファイナル「上々だ」

イゼ「流石だね」

ファイナル「…気を緩めるなよ?」

イゼ「わかってるって♪」

ファイナル「今日は何かあったか?」

イゼ「白玉楼は何もなかったよ〜」

ファイナル「…白玉楼「は」?」

イゼ「妖奈達が襲われたんだって。それを庇ってレイルが怪我した」

ファイナル「…」

エンド「あと最近人里が騒がしいよ。「変な奴らが現れた」って」

ファイナル「変な奴ら?」

エンド「4人組なんだけどさ。雰囲気が物々しいっていうか。明日の新聞に乗ると思うからそれ見たらわかると思う」

ファイナル「そうか。妖羅達はどうしてる?」

イゼ「寝てるよ〜」

ファイナル「寝てるのか」

イゼ「うん。可愛い寝顔だった♪」

ファイナル「…お前らしいな。妖夢は?」

イゼ「向こうにいるよ〜」

ファイナル「そうか。ありがとう」

足を妖夢がいる方へと進める。

ファイナル「帰ったよ」

妖夢「おかえり。」

この何気ないやり取りが心を癒す。
最近疲れているのか知らないが妖夢の近くにやけにアイゼンのような影が見える。
…まぁ、きっと疲れているんだろう。

ファイナル「…」

妖夢「…?」

ファイナル「…気にしないでくれ」

妖夢「わかった」

なんとなーく分かる。
きっとアイゼンの事だろうと。
少しだけ、宿ってるもんね。
ファイナルとの記憶、私も少しだけ知ってるんだよ。

ファイナル「…疲れたな」

妖夢「お風呂入って寝たら?」

ファイナル「…そうするか」

〜〜〜〜〜〜

〜脱衣場〜

服入れる籠が出てる。
先客がいるな。
まぁいい…さっさと入ろう。

〜〜〜〜〜〜

〜露天風呂〜

マイン「…君か」

ファイナル「お前だったか」

マイン「まあ入れよ」

ファイナル「ああ」

温かい。
丁度いい湯加減だ。

マイン「…」

ファイナル「いい湯だな」

マイン「そうだね」

ファイナル「この前リバと戦ったらしいな。傷はもう良いのか?」

マイン「…大分良くなったよ。でもまだ少し痛むね」

ファイナル「…大丈夫か?」

マイン「傷はもう塞がってるさ。」

ファイナル「そうか…」

マイン「…君こそ。傷は無いのか?」

ファイナル「今は無いな。」

マイン「…」

ファイナル「昔は酷かった」

マイン「子供の頃の話かい?」

ファイナル「そうだ」

マイン「腕を切ってたりしてたらしいね。見つからなかったのか?」

ファイナル「…見つからなかった。袖で隠れたからな」

マイン「…待て。その状態で風呂とか入ったのか?」

ファイナル「勿論」

マイン「…痛いだろ…」

ファイナル「ああ。痛かった」

マイン「想像したくないね」

ファイナル「あの頃よりも痛い目にあったことなんていくらでもある。」

マイン「…そうだろうね」

ファイナル「まぁ、それに比べたら今は楽だ」

マイン「…そうかい。…なあ、1つ変な事を聞いてもいいかな?」

ファイナル「なんだ」

マイン「僕のことをどう思う?」

ファイナル「…エキドナにいた頃は失望したけど、今は頼りになる親友だ」

マイン「…親友ねぇ…」

それはずっと変わらないか…

ファイナル「不満か?」

マイン「いいや、満足さ。これからもよろしく頼むよ、ファイナル。」

ファイナル「勿論だ、マイン。」

お互いに微笑む。
過去にあった事は水に流してしまえばいい。
いつかこうやって笑い合える時が来るかもしれないから。
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