第25話

文字数 1,237文字

最近のバイトの状況としては随分簡素化してきた。時間の苦痛はあまり考えないようにし、コロナ解除後の理由から客も増えた為、必然と作業に忙殺されるようになった。
数十人の女のバイトで一人しかない男の私。女たちの消えることのない鬱憤や怒りは同姓には言えない為私の所にやってくる。それは見方によっては犬が仰向けになって腹を見せながら貴方には敵意はございませんって言っているようでもある。女は生存本能をかけた女同士の争いがあるのでこの戦いは永遠に終わらないだろう。
私といえば全ての女の機嫌を取っている訳ではなく、本質的に嫌いな女とは口もきかない。これは若い頃からそうで、人を舐めている高慢な女やピュアな部分の一個もない女は徹底的に無視し関わらない。それに容姿は全く関係ない。しかし、大したもんで女はすぐにそれを察する。

そういえばバイト先で先日、いつも行く中国人企業で働いていた女と会った。彼女は四二にして結婚、出産を経て日本人で唯一数年間働いた人だ。やあ、久しぶりって話しかけると「え? 誰? 」と目を丸くした。私だと分かると「若い! 」と驚嘆の声を上げた。(やっぱり昼間から身綺麗にするべきだろうか? )
それからは堰を切ったように自分の退社後の経緯を喋り続ける彼女。
何でも前職に付随した店舗を開店したり、商売をしようとしたのだがコロナで客足は伸びず店は閉め、ネットに特化して商売しているらしい。私って向こう見ずな所あるからと言う。(ほ~)
「ところで聞きたかった事があるんだけど」
 と私は中国人社長の長男が死んだ事を問うた。中学二年生で病気や事故でなく死んだって事になっていた。案の定、自殺だったらしい。原因は虐めなのか何なのかは不明との事。
「日本人で子供が自殺して立ち直った人間を知らないが、あの社長なら立ち直るかもな」
 と私は言った。あの何があっても会社を閉めない社長が一日だけ葬式の為、閉めた。だが、次の日には仕事に出て来ていたのである。
彼女が言うには葬式当日の社長の落ち込みは相当なものだったらしい。
中国人と日本人の死生観はほぼ同じで霊魂を信じている。同じ観点で不幸に立ち向かい克服できるか出来ないかは興味深い。
「最大の親不孝だな」
 と私は言った。この自殺は最大の親不孝である。死んだ奴はどうでも良いが残された者はかなり深い後悔の念に苛まれる。正義から言えば自殺した人間は忌み嫌わねばならない。只、神の気まぐれか死んだ人間は可愛い子だったり良い子だったりする。もし、虐めや理不尽な事で殺されたのであれば思う存分復讐すればいい。法? 何だそれ。

ふと思ったのだが、ロックミュージシャンも物書きも精神異常者が多いのだが、ロックの場合は常に外に向かう。その点、物書きのボンボンはマスターベーションを繰り返す暗いお坊ちゃまばかりである。放蕩息子の成れの果て、そこら辺が好き嫌いの分かれ目な気がする。普通に生きる努力を必要としない輩は楽で良いよな。
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