第35話 呼び戻し Ⅳ

文字数 957文字

まだ融は現れない。

流石に樹は心配になった。
立ち上がり、様子を見に行こうと思った。
「呼び戻し」と言われても何をどうやるのか全く分からなかった。
危険はないのだろうか?
樹は不安になった。
まさか・・何か予期せぬ事故があったのでは・・
そう思ったらもう居ても立っても居られなかった。

ストックを突きながら廊下を急いだ。
「どうしよう。融君に何かあったら・・」
樹は心臓がどきどきしてきた。
融の寂しい笑顔を思い出して胸が痛んだ。
もしも彼に何かあったら・・。樹は心配で胸が張り裂けそうだった。
ああ・・どうしよう。
悪い考えばかりが浮かんだ。


廊下の向うから融と由瑞が何かを話しながらやって来るのが見えた。
樹はもう崩れ落ちそうだった。
全身で安堵のため息を付いた。

樹の前に来ると融は言った。
「あれ?どうしたの」
「いや・・もう40分が過ぎていたから心配になって・・」
樹はそう言った。
融は時計を見た。
「本当だ。遅くなって御免。ちょっと相談事があって」

由瑞が言った。
「じゃあ、赤津さん。私は茶菓子を持ったら部屋に戻りますから・・・赤津さんはどうしますか?」
融は言った。
「俺は樹と一緒に食堂で一休みをするので。先に皆さんに持って行って貰っていいですか?」
「分かりました」
そう言うと由瑞はすたすたと食堂へ入って行った。


樹と融はその後を行く。
「どうだった?」
「すごく疲れた」
融は言った。
「呼び戻しってどうやるの?」
「そうだなあ・・。まあ心から真剣に呼び掛けるって感じかな」
「そんな事を15分もやっているの?」
「そう」
融は答えた。
食堂を出て行く由瑞と出会った。
「じゃあまた・・20分後に」
彼は時計を確認してそう言った。
「えっ?またやるの?」
樹は驚いた。
「そう。もう少しやるかも知れない」
「ええっ!」

樹は融の顔を見た。
「大丈夫なの?・・・私、凄く心配した。遅いから。何か事故でもあったのかって・・」

融は樹の顔を見た。
やっぱり呼ぶべきじゃ無かったのだ。こんな場所に。
何度も思ったが、またそれを痛感した。

「ねえ。キスしてくれる?」
融は言った。
「いいよ」
樹は腕を伸ばして融の首に掛ける。融は樹を抱き締めた。
唇を離すと樹が言った。
「お守り」
「うん。有り難う」
融は答えた。

「さて、一緒にアイスでも食べようか。エネルギーを補給しないと」
そう言って二人は食堂に入って行った。

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