第2話  佐伯家 Ⅱ

文字数 1,450文字

随分若い母親だと思った。
背が高くすらりとして美しい立ち姿は由瑞に似ている。史有にも。
という事は、蘇芳は父親に似ているのか?
融はそう思った。

「本当に有り有難い事です。お世話になります」と頭を下げた。

雪乃は視線を小夜子に移した。
「すごいパワーを感じるわ。こんな状態であっても。彼女にとって、ここはいい影響を与えると思うわ。ここは自然のパワーに溢れているから」
「きっとそうだと思います」
融は答えた。

「・・・それで・・と。そのベッドの下にいるモノは何かしら?」
彼女は聞いた。
「・・・名前は夜刀です。・・・・前回、こちらの憑き物を退治した鴉です。ここに居させてください。もう一匹、伊刀という犬がいるのですが・・・伊刀と夜刀が交代で小夜子の傍に付いています。
こいつらは小夜子から離れないんです。何も悪さはしません。ここに居るだけです」
融はそう言った。

怪異を退治した鴉と聞いて、雪乃は驚いた。
「まあまあ先日はお世話になりました。お陰様ですっかりきれいになったわ。有難う御座いました。・・・・私の名前は佐伯雪乃です。宜しくお願いします。夜刀さん」
返事を待ったが何の言葉も帰って来なかった。
「しゃべらないのかしら?」
雪乃は言った。
「人見知りなんです」
融は笑って答えた。

「それは・・所謂『式神』と言うモノかしら?」
雪乃が言った。
「まあ・・」
「凄いわね。本物の巫女様ね」
雪乃は感心した。

雪乃はじっと融を見る。
「?」
「何か?」

「ふふ・・。あなたが宇田さんの彼氏なのね。・・・あら?驚いた?そう、知っているのよ。ウチのバカ息子が宇田さんに咬み付いたから。それを謝罪しに東京まで行ったの。旦那と二人で。本当に申し訳が無いと思ったわ。
大騒ぎにならなくて本当に良かった。宇田さんにはとても感謝しているの。

 でも、その縁があなたに繋がって小夜子さんに繋がって、そして史有はまるで生まれ変わったみたいに勉強している。愛しい小夜子さんの為に。恋の力って凄いわね。あの史有がって・・・だから、私達は全力で彼女をサポートするわ。だって、史有があんなに好きなのだから。
 史有は目を開けた彼女に早く会いたくて仕方がないの。ふふふ。一途でしょう?なんて可愛いのかしらって思うわ。

加えて、蘇芳はあなたに夢中だって。あなたには可愛い恋人がいるのに。
由瑞がそう言っていたわ。
まあまあ・・・。
ウチの子達はあなたの一族が凄く好きみたいね。

確かにあなたは素敵な男性だわ。・・男らしくて笑顔がとても優しくて。誠実な感じがするわ。性格の良さが人柄に出ているわね。
あなたのお母様はあなたをとても上手に育てたわ。あなたはみんなに愛されて育ったのね」

融はその言葉を聞いて、目を瞬いた。
一瞬胸が痛くなった。

きっとそれは本当の事なのだ。
母も祖父も。今眠っている小夜子も。みんな自分を愛してくれた。だから自分は独りでも小夜子を大事にすることが出来るのだと。小夜子が意識不明の状態であっても生きていてくれて本当に良かったと思える。融は心からそう思った。

「さて隣のゲストルーム。あなたのお部屋として好きに使ってもらって構わないわ。元々は病室だったから、ここと同じでトイレも洗面もバス、シャワーも付いている。フローリングに畳を入れてあるから。お布団は自分で敷いてね」

「・・もし良かったら連休中、宇田さんを連れて来てもいいのよ。寂しいでしょうから。
あなたのお部屋に泊めてあげてね。」
融は驚いて雪乃の顔を見た。
「私達は宇田さんの人柄も知っているから。いい人よね」
雪乃はにっこりと笑った。
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