第12話 お電話ありがとうございます。コダマ証券です
文字数 1,717文字
前鬼と連絡が取れなくなってから約1時間が経過した。成田国際空港で前鬼が出国したのが1時間前、ダグラスの手下の飛行機は搭乗手続きが始まっている。
ガセネタだったのだろうか?
情報が間違っていた可能性もあるから、コダマは会社(コダマ証券)に確認することにした。
コダマが公衆電話から電話すると、ササガワが元気よく電話に出た。
「お電話ありがとうございます。コダマ証券です!」
「ああ、俺です。ダグラスのマネロンの情報、あれは信用できる情報ですか?」
「そのはずよ。情報は正しいと思う」
「そうか・・・じゃあ、もうちょっと待ってみるか」
「そういえば、さっきダグラスの娘から電話があった」ササガワは思い出したように言った。
「ダグラスの娘?」
「アリス・ピーチって言っていたわね」
コダマは株主総会で見かけたブロンド髪の女の子を思い出した。武とお菊さんが騒いでいた女の子だ。
「それで、娘が何の電話を?」
「武くんのことをいろいろと聞かれたわ。きっと、株主総会で同年代の男の子に会ったのは初めてだったんでしょうね」
「へー、娘の電話の内容はそれだけだった?」
「そうそう。前鬼が捕まったらしいよ」
「え? 前鬼が出国ゲートを通過したまま戻ってこなかった。ダグラスの手下に捕まったのか・・・」
「そうみたいね。連れていかれた場所を聞いたわ」
「どこ?」
「場所は千葉中央埠頭。アリスは「先に行って待っている」と言ってた。住所を聞いたから今から言うわね」
コダマはササガワから住所を聞くと手帳に書き留めた。
電話を切ったコダマは武たちのところへ小走りで戻った。
武たちに合流したコダマは、ササガワから聞いた電話の内容を武とお菊さんに伝えた。
「前鬼が捕まったようです」
「えー、またー?」と不満を言う武。
「これで3回目だよね? 2回も助けてあげたのに、また?」とお菊さん。
武とお菊さんは前鬼のことを心配していないように見える。
とは言うものの、実は心配しているかもしれないから、コダマは念のために確認する。
「千葉中央埠頭に連れていかれたらしいです。助けに行きますか?」
「えー、もう嫌だよ。この前も助けようとしたら、パワースーツに穴が空いたって、うるさかったもん」と武。
「そうね。前鬼を助けても私たちの業務は終わらないものね」とお菊さん。
前鬼は助けに行かない、そう結論付けられた。
でも、人命が係っているからコダマは念のために確認する。
「じゃあ、前鬼は助けに行かないということで決定ですね?」
「うん」と武。
「決定!」とお菊さん。
「ちなみに、前鬼の情報を教えてくれたのはダグラスの娘アリスでした。コダマ証券に電話してくれたのだけど、アリスは先に行って千葉中央埠頭で待っているらしいです」とコダマは言った。
「あー、この前の! アリスちゃん、千葉中央埠頭で待ってるんだ。武くんはアリスちゃんに会いに行かなくていいの?」とお菊さん。
「アリスはダグラスの娘でしょ。罠じゃないのかな?」
アリスのことが気になるものの、わざわざ居場所を教えてきたことを疑う武。
「罠じゃなかったらどうするの? 女の子を待ちぼうけにさせるなんて、酷い男だと思われるわよ。私だったら泣くわね。3日くらい立ち直れないかもしれない・・・」
どこか遠くを見ながら呟くお菊さん。
「でも、罠かもしれないでしょ? そんなところに行ったら敵の思うつぼだよ」
「えー。行かないの? コダマさんはどう思う?」お菊さんはコダマに質問した。
「どうでしょうねー。個人的な感想を言うと、罠じゃないと思います。アリスが会社(コダマ証券)に電話をしてきたのは、武くんのことを聞きたかったからです。前鬼の情報はついでに教えてくれた感じですね」
「ほらー。前鬼の居場所は、武くんをデートに誘う口実なのよ! アリスちゃんに会いに行ったら?」
「そうかな? ちょっとだけなら・・・」と武は小さく言った。
―― 女の子からのデートのお誘い。期待してるわよねー
ニヤニヤしながら武を見るお菊さん。
お菊さんの興味は少年と少女の恋の行方だけ。すでに前鬼のことは忘れている。
こうして、武たちは千葉中央埠頭に向かった。
目的はアリスに会うため。前鬼は助けない・・・