第15話 ロミオとジュリエット

文字数 1,713文字

 失恋の痛手を感じながらも冷静になろうとする武。

 猫は「11歳でも女は女だなー」「騙されたなー」と武の心の傷をえぐってくる。武は「うるせー」と言いながら、冷静さを保とうとする。

 武の前方にアリスとスーツ姿の男が5人いる。そして、少し離れた場所に椅子に縛られた前鬼が見えた。

 敵の5人は武の前方に固まっているから、リチウム弾を発射すれば全員を戦闘不能にすることはできる。ただ、それをするとアリスまで射撃することになる。

 アリスは初恋の相手。でも、アリスはダグラスの娘。
 武を誘い出して一人でここに連れてきたのはアリス。
 どう考えてもアリスは武の敵のはずだ。

―― でもな・・・女の子だしな・・・

 初恋と失恋で頭が整理できない武。
 攻撃の決心が付かないから、アリスがダグラスから離れたタイミングで狙撃することにした。


 武が敵の様子を見ていたら、前鬼は武が倉庫にきたことに気付いたようだ。

「武くんー、ここだよー! 助けに来てくれたんだよなー、ありがとぅぅぅぅ!」と大声で武に話しかける前鬼。なぜか後半は涙声に聞こえた。

 アリスに騙されて倉庫に入ってきた武はイライラしている。

 そんな武は前鬼に強く当たった。
「助けに来たんじゃねーよ! バーカ!」

 少年に罵声を浴びせられて、前鬼は傷心している。
 助けに来てもらえないと諦めていたところに現れた武。前鬼には武が神様のように見えた。
 でも、その神(武)は前鬼のことを助けに来たわけではないと言う。
 こういうのを、期待させておいて落とす、というのだろう。

 それでも、このまま見捨てられると困る前鬼。何とか助かる方法を探っていく。
 武との会話の糸口を見つけるために、前鬼は別の話題を振った。

「お前、女の子と一緒に入ってきたよなー。いいことしてたんじゃねーだろーなー?」

 猫に続いて失恋の傷を抉ってくる能天気な前鬼。

「うるせー!」と怒鳴る武。

「どーなんだよー?」しつこい前鬼。

「殺すぞ!」

 猫は「お前、関係ない奴にキレてんじゃねーよ」と爆笑している。


 そんな中、ダグラスは武と前鬼の口喧嘩が途切れるタイミングを窺っていた。
 会話が途切れた隙を狙って、ダグラスは言った。

「手を頭の上に組んで壁の方へ歩け!」
 黙り込んだ武に向かって、ダグラスは拳銃を構えた。

「分かったよ・・・」武は素直にダグラスの指示に従った。

「お前か? 俺たちの邪魔をしていた奴は」
 ダグラスは前鬼の頭を拳銃で小突きながら言った。

 拳銃で小突かれた前鬼はヘラヘラしている。愛想よくしないと撃たれるかもしれないから。

***

 武は改めて倉庫を見渡した。目視した限りでは、倉庫は幅30メートル、奥行き100メートルくらいだ。この広さを一酸化炭素で満たすのは時間が掛かる。今はお菊さんがいないから敵を物理攻撃で倒すしかない。

 武がダグラスを睨みつけていると、パンチパーマの黒服が武のことを指さして笑っている。

「ダグラスさん、このアホはお嬢の色香に惑わされて、のこのこやってきたんですか?」

「ああ、みたいだな」

「傑作ですねー」
 パンチパーマの黒服は笑うのを止めない。

「お前、アリスのことが好きなのか?」ダグラスは大声で武に聞いた。

「別に・・・」武は小さく言った。

「聞こえねー。声がちいせーぞ!」

「好きじゃねーよ!」武は大声で言った。

 傷付いた少年のせめてもの強がりだ。武は失恋相手のアリスを睨みつける。

 武に「好きじゃない」と言われたアリスは「そうなの・・・?」と小さく言った。

「好きじゃないわけじゃない、というかアリスは僕の敵だよね?」と武はアリスに聞く。

「違うよ! 私は武の敵じゃない!」

 アリスの言葉の意味が分からない武は、改めてアリスに確認する。

「えーっと、アリスはダグラスの娘。ダグラスは僕の敵。だから、アリスは僕の敵。そうだよね?」

「違うわよ」

「違う?」

「武と父は争っている。そして、私は武の敵の娘。敵同士の家に生まれた男と女。あなたはモンタギュー家の一人息子。私はキャピュレット家の一人娘」

「ひょっとして・・・」

「そうよ。あなたはロミオ、私はジュリエット」

―― コイツ、イタイな・・・

 武は残念な少女に恋していたことを恥じた。

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