第1話 年貢の納め時

文字数 1,684文字

 このストーリーは少年と猫の冒険『勝手に他人の半生を書いてみた』の第4章です。
 第1章『僕と猫と米沢牛』、第2章『僕と猫と明珍火箸』と第3章『僕と猫とゲートキーパー』を読んでいなくても、理解できるように書いているつもりです。念のために第1章、第2章、第3章のあらすじを掲載します。

<第1章、第2章、第3章のあらすじ>

 時は1959年。山形県米沢市で暮らしていた10歳の山田武(たけし)はクローン人間。武と白い猫(ムハンマド)はある事件をきっかけに、クローン技術を争奪する米沢戦争に巻き込まれる。米沢戦争は自衛隊の介入で終結したものの、クローン研究者の父を脅す材料として武は米沢派の残党から狙われることになった。武を米沢派から守るため、母の信子は武と猫を連れて実家のある兵庫県姫路市に避難した。

 姫路市に到着した武と猫は播州皿屋敷伝説を解決するために奮闘する。試行錯誤の結果、武たちはお菊さんを400年の責務から解放することに見事成功。米沢派の残党が姫路に来た情報を入手した武たちは、お菊さんを仲間に加えて東京に避難した。

 東京に避難してきた武、猫、信子とお菊さん。武、猫とお菊さんが散歩に出かけた目黒不動尊でお菊さんの故郷の惑星に繋がるゲートを発見し、門番の案内でその惑星へ行く。その惑星では、地球人ダグラス・ピーチがリーダーを務めるテロ組織:ピーチ・ボーイズが大量虐殺を繰り返していた。原子操作により物質を生成できるようになった武とお菊さんはピーチ・ボーイズを制圧するが、リーダーのダグラス・ピーチを取り逃がしてしまう。武とお菊さんはピーチ・ボーイズの資金源を断つために、地球へ戻った。



(1)年貢の納め時

「お前か? 俺たちの邪魔をしていた奴は」
 黒いスーツ姿の男はそう言うと、武に拳銃を構えた。

 武は頭の後ろに手を組んで壁際に立ったまま、男を睨みつけた。
 そのスーツ姿の男こそダグラス・ピーチ。テロ組織であるピーチ・ボーイズのリーダーだ。

 武が無言のまま睨みつけていると、ダグラスは「年貢の納め時だね」と小さく呟いた。

―― こいつ、難しい日本語知ってるな・・・

 武はそう思いながらも、『年貢の納め時』がこの状況を的確に表していないような気がした。
 そもそも、年貢の納め時とは、収穫した米の量を誤魔化して年貢(税)を過少に納めていた農民に対する言葉だ。つまり、悪事をし続けてきた者が罪に服して、これまでの悪事をつぐなう時が来たことを表す表現。

 10歳の武は今までの10年間(正確には5年間)を振り返ってみた。武はいろいろやってきたものの、基本的にそれらは悪戯(いたずら)の域を出ない。思い返してみても、悪事と言われるほどのことはやっていない。

 ただ、武が悪事をしたか否かを今ダグラスと議論する状況ではない。

 なぜなら、ダグラスの隣には椅子に縛られた前鬼がいる。人質だ。
 10人に聞いたら10人が、『年貢の納め時の言葉の使い方が正しいかどうかを議論するよりも人質を助けろ!』というだろう。

 ダグラスの拳銃は前鬼の頭を小突いている。明らかに武を挑発している。

 だが、この光景は武には既視感がある。
 前鬼は過去に2回ピーチ・ボーイズの人質になっている。今回で3回目だ。

 前回は前鬼もろともピーチ・ボーイズを攻撃したが、特に問題はなかった。
 地球で同じことをしても大丈夫だろうか?
 武が気になるのは・・・

―― 何かの罪に問われる可能性はないだろうか?

 前の2回は武が攻撃して前鬼に当たっても役小角(えんのおづぬ)に小言を言われるくらいだった。でも、他の惑星では罪にならないことでも、地球では罪になる可能性がある。人質を傷つけたとして傷害罪に該当すると厄介だ。
 前鬼もろとも攻撃するか否かは、ちょっとペンディングにする。

 それに、ダグラスは直ぐに前鬼を射殺しようとしているわけではなさそうだ。人質は殺してしまっては意味がない。
 そう言う意味では、攻撃のタイミングを計る余裕はありそうだ。

 それにしても・・・

―― どうしてこうなった?

 武は兜町に潜入してからの記憶を思い起こした。
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