5・ミレーの絵と従軍慰安婦

文字数 1,530文字

5・ミレーの絵と従軍慰安婦
「私、ミレーの落穂拾いの絵はフランスの夕暮れ時の農家の婦人たちが収穫した残りの落穂拾いをしていたのだと長い間、ずうっと思っていたのよ。それが、教会の礼拝堂に飾ってあった理由を聞いて、それが聖書の旧約聖書を題材にして書かれた絵だということを知ったのよ。単純に農家の婦人たちの絵を描いたのではなく、農家の人の土地とは関係のない、一人暮らしの女性や貧しい女性たちが収穫を終えたあとの落穂を拾って生活の糧にしていたということを知ったのよ。それも、土地を持っている人が、あえて落穂を拾うのではなく、一人暮らしの女性や貧しい女性たちのためにあえて、落穂を残し、その人たちのために拾わせているということを知って奥深い意味がある絵だということを知ったのよ。そのとき、私は韓国の従軍慰安婦や徴用工の人たちのことを思い起こしたのよ。
 私は韓国にいたときに、従軍慰安婦や徴用工の人たちを含めて日本が戦争の時に国としての賠償の他に個人の賠償を含めて1965年に日韓条約に基づいて賠償金が支払われているという事実を知らなかったのよ。
 日本の新聞を読んで、初めて個人の賠償金も含まれていることを知ったのよ。」

日本はかつて韓国を植民地としていた不幸な歴史があった。
日本は、アメリカを含めた連合軍との戦争に敗れ、サンフランシスコ平和条約に基づいて敗戦後の平和と復興の礎を礎いた。韓国との間では、不幸な歴史を清算するために一九六五年日韓請求権協定に基づき、戦争時の賠償問題に決着をみた。だが、一九六五年日韓請求権協定に基づき、国家間の賠償の問題には決着はついたが、個人補償の問題は未解決かどうかについて論争が巻き起こり、最初は従軍慰安婦の問題で国家間の合意が有効かどうかについてモメたあげく、徴用工の問題でも韓国の最高裁判所が個人の補償がなされていないとして、徴用工への賠償を認めた。しかし、日本の最高裁は同じ問題で、徴用工の問題は外交上国家間で解決済とした。
つまり、日本の最高裁判所と韓国の最高裁判所の判断が同じ問題で逆の結果になったのだ。
 日本人は日本の司法を信じるし、韓国人は韓国の司法を信じるのはあたりまえのことだ。
 おかげで、日本と韓国は一九六五年以来、最悪の関係になっており、新聞には「泥沼状態だ」と論評する記事もある。韓国の大統領は韓国の世論を気にし、日本の首相は日本の世論を気にして膠着状態に陥っている。
 
 礼拝堂からの漏れるパイプオルガンの音色がクリスマスにふさわしいリズミカルで明るい音色に変わる。
「私、日本に来て、一九六五年日韓請求権協定の内容を読んだのよ。最近、韓国でもソウル大学の方が、日韓協定の議論の内容を書いた三万六千ページの文書を分析された方がいたのよね。韓国で分析された方が、本来、個人補償の分が賠償金の中に入っており、日本側はそのお金を個別に個人に支給したいと言っていたのよね。それを、韓国は、個人補償は政府が責任をもって行うので一括で韓国政府が受け取るという内容になっているね。
本来、個人に渡すお金を韓国政府は経済の立て直しに使ってしまったのよね。それは、急いで戦後の復旧をしなければいけないということでわかるんだけど、漢江の奇跡と言われるくらいに急激に経済が回復したときに、本来、」個人に給付すべきお金を従軍慰安婦や徴用工の方々に支給すべきだったのよね。
それが、ミレーの絵にある落穂拾いだと思うのよ。
 本来、個人賠償に回すべきお金を使って、政府が経済を回復したのなら、それを従軍慰安婦や徴用工の方々に回すべきだったのだと思うのよ。だから、私はなんて、ミレーの落穂拾いと違うのかしらって思うのよ。」
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登場人物紹介

私・イチロー(大学4年生)

ユンハ(韓国生まれ)

イ・ユンハ 韓国からの仙台の大学に留学している女性

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