6・旧約聖書レビ記

文字数 709文字

6・旧約聖書レビ記
教会の礼拝堂の入口近くの壁に架けてあるミレーの落穂拾いの絵は、どこの家にもうよく架けてある。
フランスのフォンテーヌブローの森のはずれにある農場が描かれている。刈り入れが終わったあとの畑に残った麦の穂を拾い集める三人の農婦が描かれている。
うず高く積まれた穀物を背景に、二人は正面を向いて腰をかがめ、一人は背中を向いている光景だが、牧歌的な幸せな様子だが、実際には深い意味が絵の中にはこめられている。その解き明かしは旧約聖書の話に基づいている。
旧約聖書レビ記には、「あなたがたの土地の収穫を刈り入れるときは、畑の隅々まで刈ってはならない。あなたのっ収穫の落穂を集めてはならない。また、あなたのぶどう畑の実をとりつくしてはならない。あなたのぶどう畑の落ちた実を集めてはならない。貧しい者と在留異国人のために、それらを残しておかなければならない。わたしはあなたの神、主である」とある。
 ユンハさんは、ミレーの落穂拾いを見て、従軍慰安婦と徴用工を農婦たちと重ね合わせて見ていたのかもしれない。
「イチローくんは、こんどの韓国の最高裁判所の判決をどう見ているの?」
ユンハさんが私に訊いてきた。私が、「どうして私に訊くの?」と逆にユンハさんに訊いた。
「教会の田中さんが、『イチローくんは徴用工に詳しいから訊いてみたら?』と言われたのよ」と言った。
それで、田中さんがユンハさんと私にコーヒーの無料券をくれたのかその理由に合点がいった。
「私が徴用工に詳しいと言っても、韓国の徴用工ではなく、日本の徴用工のことですよ」と言った。
「日本にも徴用工の問題があるの?」ユンハさんが怪訝そうに訊いてきた。

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登場人物紹介

私・イチロー(大学4年生)

ユンハ(韓国生まれ)

イ・ユンハ 韓国からの仙台の大学に留学している女性

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